地域医療ネットワークへの接続も視野に

 医師会においても、クラウド電子カルテを積極活用しようという動きが出てきた。その一例が、東京都医師会の取り組み。同医師会は東京都の「東京都地域医療連携相互ICT システム整備支援事業」と連携し、都内全域の医療機関の電子カルテなどを相互接続する医療情報連携ネットワーク「東京総合医療ネットワーク」構築事業を2017年度から本格化する。ここにクラウド電子カルテを利用しようというのだ。

「災害などのリスクを考えると、東京都全体を一つの圏と見なし、医療機関を連携させるようなネットワークが必要になる」と語る東京都医師会の目々澤肇氏。
「災害などのリスクを考えると、東京都全体を一つの圏と見なし、医療機関を連携させるようなネットワークが必要になる」と語る東京都医師会の目々澤肇氏。

 この構想は、「相互接続」とうたっていることが示すように、連携する医療機関同士で診療情報を双方向で共有し合うことを見据えている。それには中核病院だけでなく診療所の診療データも電子カルテ化されていることが前提であり、そのためにクラウド電子カルテを東京総合医療ネットワークにつなぐことを視野に入れた計画が立てられている。

 これまで全国各地で、200カ所を超える地域医療連携ネットワークが構築されてきた。そのほとんどにおいて、中核となる病院の診療データは地域医療連携ネットワーク専用端末を使って診療所などから閲覧できるが、逆に診療所などの診療データを共有する仕組みにはなっていない。診療所のレセコンの処方データや臨床検査データを共有できるようにしているネットワークは一部あるものの、電子カルテの診療データそのものは共有されていないのが実態だ。

 東京総合医療ネットワークでは「双方向性を重視し、診療所の電子カルテデータも共有することを目指している。その仕組みに必要な連携サーバー構築に各診療所が設備投資するのは現実的ではない。そこで、クラウド電子カルテベンダーならクラウド上に連携サーバーを構築できるのではないかと着想した」。東京都医師会理事の目々澤肇氏はこう考え、クラウド電子カルテを提供するベンダーに構想への参加を打診したと話す。その呼びかけに応じたのが、Clipla(クリニカル・プラットフォーム)、DigiKar(デジカル)、NOA X(蓼科情報)を提供する3社である。

 地域医療連携ネットワークへの接続では、クラウド電子カルテが実装するセキュリティーよりもさらに高いレベルの要件や技術仕様への対応が必要になる。3社は、その仕様を満たす仕組みを開発していくことになる。加えて、アクセスする人の認証を厳格にするため、「医師資格証によるHPKI(保健医療福祉分野公開鍵基盤)の利用要件をクラウド電子カルテベンダーに求めた」(目々澤氏)という。クラウド電子カルテで東京総合医療ネットワークを利用する際にHPKIカードを利用する環境が整えば、紹介状(診療情報提供書)に電子署名を付すことができるようになり、電子化された診療情報提供書でも、紙の場合と同様に診療情報提供料を算定できる。

 東京総合医療ネットワークへの接続のための開発に応じたクリニカル・プラットフォームは、「クリニックの電子化が進まないと医療連携は進展しない。(接続への対応は)医療全体を効率化していくという当社のミッションにも合致する」とし、セキュリティー要件への対応と同時に、現実的なデータの流れや運用を見据えて設計していくとしている。

 目々澤氏は、こうしたクラウド電子カルテを利用した地域医療連携ネットワークへの情報公開の仕組みを整備し、「診療所の電子カルテ情報を共有するための一方法として、全国のモデルケースとしていきたい」と意気込みを語っている。