安さだけではない魅力とは

 クラウド電子カルテの魅力は、価格の安さだけではない。院内設置型の電子カルテにはない使い勝手の良さが、もう1つの魅力だ。大きく3つの側面がある。

 第1に、インターネット接続環境さえあれば、いつでもどこでもアクセスでき、カルテの作成や閲覧ができること。電子カルテに接続する端末の自由度も高く、ノートパソコンやタブレット端末など様々なものから選べる。

 クラウド電子カルテを導入した診療所ではこうした特徴を生かし、業務スタイルの自由度を高めている。新六本木クリニックの来田氏は、打ち合わせなどで外出する機会も多く、Cliplaを導入したことで「外出している間の(他の医師の)診療の進捗を外から確認できるため、『クリニックに戻ったほうがよさそうだ』といった判断がしやすくなった。診療終了後に、薬局からの疑義照会を院外で受けた場合にも、カルテを見ながら返答できるので助かる」と話す。

 とうきょうスカイツリー駅前内科の金子氏は、どこででも電子カルテを作成できる特徴を生かして診察中は電子カルテで最小限の記録を取るようにし、患者との対話に多くの時間を割くようにしているという。残った分のカルテ記載作業を診療時間外に行う際、「必ずしも院内で作業をしなくて済むので、作業効率を高めやすい。訪問診療や、週末に大学で担当している診療の際にも、クリニックの診療情報を外から閲覧し、院外から(非常勤医に)指示を出したりできて便利だ」(金子氏)。

写真3 「DigiKar」ではタブレット端末などでも患者所見を記録できる(写真提供:デジカル)
写真3 「DigiKar」ではタブレット端末などでも患者所見を記録できる(写真提供:デジカル)
[画像のクリックで拡大表示]

 第2の特徴は、マニュアルがなくても使えるようなシンプルな機能と、直感的な操作性。Webブラウザーを使うのと同様の感覚で使いこなせるように、画面構成や操作手順などに工夫が施されている。

 クラウド電子カルテの多くは、診療科や医療機関の個別性に左右されない最小限の機能を基本とする。その他はオプションサービスとして提供することで、余分な要素はそぎ落としている形だ。「初めから作り込みすぎると、医師にとっては“使えない”カルテになる。できるだけシンプルな作りにし、医師からのフィードバックをもとに、後から必要な機能を追加できるようにしている」(デジカル)とベンダーは話す。各社は今後、特定の診療科に特化した機能なども医師の協力を得て開発し、追加していく考えだ。

 実際、シンプルで使いやすいことや、直感的に操作できることを電子カルテに求める医師は少なくない。従来の電子カルテではスピーディーなカルテ記載を支援する入力支援機能を強みとするベンダーが多いが、キーボード操作を苦手としない若い医師にとっては、それは必ずしも求める機能ではないようだ。

 「クリニックで使う電子カルテにゴテゴテした機能は必要ない。読み書きができ、採血などのデータを閲覧でき、レセプトを発行できれば十分。複数の医師が診療に当たるクリニックであれば、非常勤の医師でも不自由なく使えることも重要だ。DigiKarはそれらの条件を満たしていた」と金子氏は話す。来田氏が電子カルテに求める条件も同様だ。「精神科では電子カルテの操作のバリエーションは比較的少ないので、シンプルな作りが好ましい。Cliplaを選んだのは、インターネット企業らしい洗練されたデザインや操作性が気に入ったため」(来田氏)という。

写真4 「Clipla」では、スマートフォンやカメラで撮影した画像を簡単にカルテに保存したり表示したりできる(写真提供:クリニカル・プラットフォーム)
写真4 「Clipla」では、スマートフォンやカメラで撮影した画像を簡単にカルテに保存したり表示したりできる(写真提供:クリニカル・プラットフォーム)
[画像のクリックで拡大表示]

 第3の特徴は、メンテナンスの手間や費用を省けること。クラウド電子カルテでは一般に、機能の更新をベンダーがクラウド上のサーバーで行う。そのため診療所の側ではメンテナンスを気にかける必要がない。メンテナンスや使用時のトラブルに関しては、クラウド電子ベンダーの多くがベンチャー系の企業であり、その機動力が高いことを魅力と感じる医師も少なくない。「メールで問い合わせるとすぐに回答をくれるなど、ベンダーのフットワークの軽さに助けられている」と来田氏は話す。

 従来の電子カルテでは、故障や操作の問い合わせなどの際に「呼べばすぐに来てくれる」というベンダーや販売代理店のサポート体制を重視する医師が多かった。一方、クラウド電子カルテベンダーは、オンサイトサポートを行っているところは少ないものの、その分、インターネットや電話を介した迅速なサポートが評価されているようだ。