日立製作所は、尿を用いたがん検査の実用化に向けた実証試験を2018年4月に開始する。名古屋大学医学部附属病院とシミックファーマサイエンスが協力し、半年間をかけて実施。尿検体の管理や搬送方法、検査のコスト構造などを分析し、実用化に向けた課題を洗い出す。この実証試験を踏まえて「2020年代の初めごろに実用化したい」(日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタの坂入実氏)という。

実証試験では尿検体の採取時間や場所、温度などをITで管理する
実証試験では尿検体の採取時間や場所、温度などをITで管理する
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 日立は、尿中代謝物を用いたがん検査に関する研究を2015年に開始。2016年6月には、液体クロマトグラフ/質量分析法を用いて、健常者とがん患者の尿を識別することに成功した(関連記事1)。ただし尿中代謝物は3000種類以上存在し、この時点では、がんによって存在量が増減するマーカー候補物質を絞れていなかった。

 同社はその後、多変量解析などを使ってバイオマーカー候補を効率的に抽出できる手法を開発。「マーカー候補を3種類ほどに絞り込むことができた。このマーカー候補を使った検証で、想像以上に有効な結果が出てきている」(坂入氏)。

 名古屋大学医学部附属病院小児外科との共同研究では、神経芽腫と呼ばれる小児がんを高い精度で判定することに成功。治療効果の判定にも使える可能性が明らかになった。小児がんでは「被曝などのリスクのない手法として、尿によるがん検査に大きな期待ができる」(坂入氏)。胆道がんなど成人の消化器がんでも同様に、高い判定精度を確認したという。

検体の扱いやすさや検査コストを見積もる

 臨床上の有用性は明らかになってきたものの、がん検査法として実用化するためには「検体の搬送や管理における扱いやすさ、検査コストなどの検証が重要になる」(坂入氏)。そこで実証試験では、(1)尿検体の回収から搬送時における温度や時間の管理、(2)液体クロマトグラフ/質量分析法によるバイオマーカーの定量分析、(3)がん検査モデルの構築とそれに基づくがんリスク判別、(4)臨床情報と判別結果との妥当性検討、などを実施。これらの解析フローを半年間にわたり繰り返し行い、実用的な検査手法を確立することを目指す。

実証試験のフロー
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