血管や組織を凝固させて封止・切離する「エネルギーデバイス」は、今や手術現場に欠かせないツールの一つとなっている。ここにきて、従来の「高周波(ラジオ波)」と「超音波」に続く第3の選択肢として、「マイクロ波」を用いたエネルギーデバイスが発売された。新登場のマイクロ波エネルギーデバイス。その実力やいかに。

 「刃先が薄く小さいので小回りが利く。例えば、肝臓や膵臓など内部の血管構造が複雑な実質臓器に対しても有用だ」。滋賀医科大学外科学講座消化器・乳腺・一般外科教授の谷眞至氏は、マイクロ波エネルギーデバイス「Acrosurg.(アクロサージ)」を使用して肝臓および膵臓の悪性腫瘍手術を行った感想をこう語る(写真1)。

写真1 マイクロ波エネルギーデバイス「Acrosurg.(アクロサージ)」と、アクロサージを使用した膵臓悪性腫瘍切除手術の様子(写真提供:[左]日機装、[右]滋賀医科大学・谷眞至氏) アクロサージには、ハサミ型の「Scissors S」とピンセット型の「Tweezers S」があるが、写真はどちらもハサミ型の「Scissors S」
写真1 マイクロ波エネルギーデバイス「Acrosurg.(アクロサージ)」と、アクロサージを使用した膵臓悪性腫瘍切除手術の様子(写真提供:[左]日機装、[右]滋賀医科大学・谷眞至氏) アクロサージには、ハサミ型の「Scissors S」とピンセット型の「Tweezers S」があるが、写真はどちらもハサミ型の「Scissors S」
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 エネルギーデバイスとは、デバイス先端から放出するエネルギーで血管や組織を凝固し、封止・切離するために使用する電子機器のこと。アクロサージのように先端が二股に分かれたタイプのエネルギーデバイスは、いわゆる電気メスと並んで、開腹・鏡視下を問わず手術の現場で広く使用されている。手稲渓仁会病院消化器外科(北海道大学大学院医学研究科消化器外科学分野II)の渡邊祐介氏も「あらゆる手術になくてはならない存在」と現状を紹介する。

「マイクロ波は凝固するスピードが速い。これまでのデバイスでは5秒かかっていたところを2秒で行えるイメージ。今後は鏡視下手術でも使い勝手が良いデバイスのラインナップが増えれば」と話す滋賀医科大学の谷眞至氏
「マイクロ波は凝固するスピードが速い。これまでのデバイスでは5秒かかっていたところを2秒で行えるイメージ。今後は鏡視下手術でも使い勝手が良いデバイスのラインナップが増えれば」と話す滋賀医科大学の谷眞至氏
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 エネルギーデバイスにおける現在の主流は、「高周波エネルギーデバイス」と「超音波凝固切開装置」の2タイプ。「高周波」は、30k~300MHzの高周波を組織に局所的に照射することで細胞内にジュール熱を発生させ、組織を凝固・封止する。一方、「超音波」は、組織に超音波振動を与え、組織とデバイスの間に生じる摩擦熱で組織を凝固・封止する。

 これに対し、谷氏が使用したのは「マイクロ波」を用いたエネルギーデバイス。デバイス先端のアンテナ部分から300M~3THzのマイクロ波を照射し、組織の水分子を温めることで凝固・封止を行う。高周波エネルギーデバイスがオーブントースターと同じ動作なのに対し、マイクロ波エネルギーデバイスは電子レンジの原理だ(図1)。高周波、超音波に続く、新しい原理に基づいた第3のエネルギーデバイスとして、日機装が今年3月に発売したのがマイクロ波を使った「アクロサージ」である。

図1 マイクロ波加熱と高周波加熱の原理の違い(千葉大学・齊藤一幸氏の資料を基に編集部で作成)
図1 マイクロ波加熱と高周波加熱の原理の違い(千葉大学・齊藤一幸氏の資料を基に編集部で作成)
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