スマートフォンの普及に伴い、需要の急減に直面するデジタルカメラ。メーカーは、得意とする技術を他分野に展開する取り組みを急ぐ。

 業界初の液晶モニター搭載デジタルカメラ「QV-10」を生み出すなど、市場成長の立役者となったカシオ計算機は今、その経験を生かしてメラノーマ(悪性黒色腫)など、皮膚疾患の診断支援システムの開発に挑んでいる。デジタルカメラで培った画像処理技術や、AI(人工知能)を用いた画像解析技術をここに注ぐ。

皮膚画像の前処理などに独自のノウハウ(写真提供:カシオ計算機)
皮膚画像の前処理などに独自のノウハウ(写真提供:カシオ計算機)
[画像のクリックで拡大表示]

 「医療分野への応用というテーマとの出会いは偶然だった」。カシオ計算機 DC企画推進部部長の北條芳治氏はそう明かす。同社はかねて、デジタルカメラ事業で培ったHDR(high dynamic range)変換技術を生かし、写真画像からアート作品のような芸術性の高い画像を作成できるWebサービスを提供していた。

 2012年初頭のこと。ある皮膚科の開業医から同社に、このサービスを学会での研究発表に使いたいという申し出があった。ダーモスコピー検査による皮膚病変の診断に使えそうだというのがその理由だ。

 ダーモスコピー検査とは、皮膚にできた腫瘍やホクロなどの色素病変を特殊な拡大鏡で観察し、良悪性を判定する検査。偏光フィルターを使うことで、表皮と真皮の両方の状態を観察できる特徴がある。その皮膚科医の申し出がきっかけとなり、この検査で撮影した画像にHDR変換を施し、元の画像と比べることで、皮膚病変の特徴をより明確に把握できることが分かった。

 思わぬ可能性に気付いたカシオは、アート用の画像変換技術をそのまま医療に適用するのではなく、専用技術を新たに開発することを決める。関係する打ち合わせに同席していた同社経営陣の後押しもあった。開発では「皮膚やホクロの色を正確に再現したり、血管だけを抽出してその走行を把握したりできるようにした。アート用画像変換技術に比べて難易度は高かった」と北條氏は振り返る。