においへの反応を蛍光で検出

 センサ細胞の材料として神崎氏らが目を付けたのは、ガ(ヨトウガ)に由来する「Sf21細胞」と呼ぶ培養細胞だ。分裂回数に制限がないため嗅覚受容体の機能を長く安定的に発現したり、25℃程度という室温に近い温度で培養できたりするメリットがある。

 センサ細胞は、Sf21細胞に大きく2種類の遺伝子を導入して作製する。1つは、昆虫の嗅覚受容体の遺伝子。もう1つは、カルシウムに対して感受性を持つ蛍光タンパク質の遺伝子だ。Sf21細胞のゲノムに昆虫の嗅覚受容体の遺伝子を導入すると、その嗅覚受容体の機能を発現する細胞ができる。嗅覚受容体がにおい物質と反応する際にはカルシウムイオンを細胞内に取り込むため、カルシウム感受性を備えた蛍光タンパク質の遺伝子を導入しておけば、においとの反応を蛍光で検出できるわけだ。

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 研究では、昆虫の嗅覚受容体の一種である「BmOR1」および「BmOR3」の遺伝子を、それぞれ別のSf21細胞に導入した。これらのSf21細胞には併せて、カルシウム感受性蛍光タンパク質「GCaMP3」の遺伝子を導入する。BmOR1とBmOR3はカイコガの性フェロモン成分、「ボンビコール」と「ボンビカール」にそれぞれ特異的に結合する受容体で、カイコガの配偶行動に関わることが知られている。

 こうして作製したセンサ細胞に対し、におい選択性や感度(検出のしきい値)、特性の安定性を調べた。