際立って高い感度と特異性

 神崎氏らの研究の特徴は、昆虫が持つ能力を「そのまま生かす」点にある。昆虫の各種器官の形状や機能を、工学的に再現しようとするアプローチとの違いがここにある。昆虫の驚異的なセンシング能力を再現する「センサ細胞」を、昆虫由来の細胞や遺伝子から人工的に作り、それを材料として疾病の早期発見などに役立つ“スーパーセンサー”を実現する。そんなコンセプトだ。

 昆虫の驚異的な嗅覚。その源は、昆虫の触角にある「嗅覚受容体」と呼ぶ膜タンパク質であることが知られている。嗅覚受容体がにおい物質と選択的に相互作用することで、細胞に電気信号が発生し、脳に伝えられる。におい物質と相互作用する際の「感度と選択性(特異性)の際立った高さが、昆虫の嗅覚の大きな特徴」だと神崎氏は話す。加えて、昆虫では嗅覚受容体によるにおいの検出メカニズムが哺乳類などに比べて単純なため、センサー素子に活用しやすい。

 昆虫の嗅覚受容体のにおいに対する応答特性は、キイロショウジョウバエやハマダラカ、カイコガといった昆虫から、100種類以上の嗅覚受容体で明らかにされているという。そして、1種類のにおいに対する感度(検出のしきい値)はサブppb(10億分の1)。半導体や水晶振動子による従来のにおいセンサーに比べて、数ケタ高い。においへの応答時間も、従来型センサーでは数分程度だが、昆虫の嗅覚受容体ではリアルタイムだという。神崎氏らは、昆虫の嗅覚受容体の機能を発現するセンサ細胞を使って、まずはppbの感度と秒単位の応答時間を備えるセンサーを実現することを狙う。