京都大学医学部附属病院では、ICTを活用して医療従事者の業務効率を高める仕組みを相次いで導入している。その一つが、看護師が日常的に病棟で行うバイタルデータ測定の効率化だ。2016年5月に運用を始めた「バイタルデータターミナル」は、看護師がベッド脇の端末に測定機器をかざすだけで自動的にその看護師を識別し、患者とひもづけた測定データを電子カルテに自動記録できるシステムだ。

「転記ミスや患者の取り違えに対するリスクも大きく減る」と話す京大病院の中山梓氏。
「転記ミスや患者の取り違えに対するリスクも大きく減る」と話す京大病院の中山梓氏。

 「患者一人ひとりのバイタルデータを手入力でパソコンに打ち込んでいた時間を、ガーゼ交換など他の看護業務に回せるようになった。とても助かっている」。京都大学医学部附属病院 南病棟3階 副看護師長の中山梓氏はこう話す。

 検温をはじめとする入院患者のバイタルデータ測定は、看護師が日常的に行う業務の一つだが、その負荷は思いのほか大きい。通常は数時間に1回、手術後や急変対応時などは数十分に1回の頻度で測定を実施。測定するのは体温と血圧のほかに、患者の病態によっては血中酸素飽和度(Sp02)や血糖値など多岐にわたり、複数の測定データをその都度、記録する必要がある。従来は、患者のベッド脇まで運んできたカートに置かれたパソコンに測定データを手入力する仕組みを導入していたが、「ナースコールなどの対応でバタバタして、あとでナースステーションに戻ってまとめて入力することもよくあった」(中山氏)。

 もちろん、手入力となれば、いわゆる「転記ミス」にも注意する必要がある。さらに、複数の患者の測定データをまとめて入力する場合には、患者間でのデータの取り違えがないように気を配らなければならない。一見、単純な業務でありながらも看護師の負担になっているのが実情だ。

一般病棟のすべてのベッド脇に端末を設置

 このバイタルデータ測定の煩雑な業務をサポートするシステムの運用を、京大病院は2016年5月に開始した。「バイタルデータターミナル(VDT)」と名付けられた同システムでは、看護師は測定後、病床の各ベッド脇に1台ずつ設置した端末に測定機器をかざすだけ(図1)。あとは、自動的に測定データが患者の電子カルテに記録される。

図1 端末にかざすだけ
図1 端末にかざすだけ
測定機器をベッド脇に設置した端末にかざすだけで、データを自動的に取り込める。ベッドそばの壁に設置された端末は、25cm四方ほどの大きさ。

 病床数1121床の京大病院では、重症系・精神科神経科を除く一般病棟のすべてのベッド脇に端末を設置。本格運用を始めて約半年が経過したが、看護師からの評判は上々だという。