セルはほぼ良好に発電

――桜島の火山灰による、太陽光パネルの性能劣化などについてはどうですか。

 鹿児島県工業技術センターに1989年に設置され、約27年間、火山灰が降る中で曝露されていた多結晶シリコン型パネルのうち数枚を取り外し、解析してみました。

 火山灰による影響を知ることはもちろん、20年を超える長期使用による劣化状況を知る機会にもなります。固定価格買取制度(FIT)によって急増した太陽光パネルが、買取期間中や終了後に生じうる劣化の可能性を、いち早く把握できるとも考え、解析しました。

 電気的な特性とともに、付着物の状況を調べました。

 まず、電気的な特性として、I-V(電流-電圧)特性を調べてみると、太陽光パネルのラベルに記されていた出力58.7Wに対して、最大で46.66Wを出力することがわかりました(図4)。

図4●火山灰が降る環境で27年間発電を続けたパネルのI-V特性
図4●火山灰が降る環境で27年間発電を続けたパネルのI-V特性
鹿児島県工業技術センターの曝露試験設備に設置されたパネル(出所:産総研 太陽光発電研究センター)
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 最大出力は、工場出荷時に比べて79.5%まで低下していることになります。設置後の約27年間の平均で0.76%の劣化率ということになり、悪くない数値と見ています。

 現在、購入できる太陽光パネルに対して、メーカーの保証する劣化率は年約0.5%です。これに対して、平均0.76%という数値は、絶対値だけ見ると高い劣化率に感じるかもしれませんが、27年前に作られたことを考えると、逆に当時の技術力の高さを示すものと捉えています。

 EL検査では、セル(発電素子)の状態が、おおむね良好なことがわかりました(図5)。発光していない部分は、ほとんどありません。

図5●EL検査の結果は良好
図5●EL検査の結果は良好
鹿児島県工業技術センターの曝露試験設備に設置されたパネル(出所:産総研 太陽光発電研究センター)
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 パネルの表面は、茶色っぽく変色しているのですが、しっかりと発電していることがわかりました。

 27年を経過し、しかも、火山灰の降る環境にありながら、こうした状態を維持できていることから、日本メーカー製の結晶シリコン型パネルの品質の高さが伺えると思います。

 次に、付着物を調べました(図6)。ガラスの表面では、表面付着物のイオンクロマトグラフィー(IC)と誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)という二つの手法による解析から、桜島の噴火による火山灰に特徴的な成分として知られる、フッ素(F)、塩素(Cl)、硝酸(NO3)、硫酸(SO42)のほか、金属系では銅(Cu)と亜鉛(Zn)、鉛(Pb)が、それぞれ一定以上で検出されました。

図6●ガラスには桜島の火山灰に多く含まれている物質が付着
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図6●ガラスには桜島の火山灰に多く含まれている物質が付着
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図6●ガラスには桜島の火山灰に多く含まれている物質が付着
鹿児島県工業技術センターの曝露試験設備に設置されたパネル(出所:産総研 太陽光発電研究センター)

 この結果から、火山灰の成分がパネル表面に付着していることが推測できます。

 次に、二次イオン質量分析(SIMS)という手法によって、ガラスの表面(受光面側)と裏面(封止材側)の状態を見ると、火山灰によるとみられる一部の成分の濃度は表面の方が高いことはもちろんですが、裏面側からも薄く検出されました。表面側に降った火山灰の成分が、ガラス内を染み込んで裏面側にも到達したと推測しています。

 こうした状態であっても、約27年間の平均劣化率は0.76%なのです。

 「火山灰が太陽光パネルの性能や品質を大きく劣化させるのではないか」という懸念に対しては、現在のところ、「それほど大きな影響を及ぼしていません」と答えているのですが、これがその根拠の一つとなっています。

――アルミフレームへの影響は、ありますか。外周を覆い、かつ、絶縁する役割を担っています。火山灰の金属系の成分が付着することで、悪影響はありますか。

 アルミフレームの様子も調べました(図7)。表面に、ごつごつした、穴というか窪みが多数、見られました。しかし、これが、火山灰の成分に多く含まれている硫酸や硝酸による影響なのかどうかは、まだ分析できていません。

図7●アルミフレームも分析
図7●アルミフレームも分析
鹿児島県工業技術センターの曝露試験設備に設置されたパネル(出所:産総研 太陽光発電研究センター)
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 こうした状態でも、発電性能が大きく劣化していませんので、大きな悪影響が及んでいることは、あまり考えられないと見ています。