ガラス割れから、CIGSパネルの全面でセルが損壊

――カバーガラスが割れた太陽光パネルを、あえて交換せずにそのまま設置し続け、評価していますね。

 それも、重要な評価の一つと考えたためです。2016年7月に、CIGSのパネルのうち、1枚のカバーガラスが割れていることを発見しました(図4)。2010年の導入後、パネルのカバーガラスに割れが生じたのは、実は初めてでした。

図4●カバーガラスが割れたCIGSパネル
図4●カバーガラスが割れたCIGSパネル
発電量などへの影響も研究対象に(出所:産総研 太陽光発電研究センター)
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 太陽光パネルのカバーガラスは、自動車のガラスに似た強化ガラスが使われています。割れた場合、起点からクモの巣のように、放射状の割れが全面に広がっていきます。

 太陽光発電所の場合、安全性や発電量の低下の恐れから、カバーガラスの割れた太陽光パネルは、すぐに交換すると思います。

 しかし、産総研は研究機関ですので、割れたまま設置を続け、発電量などにどのような影響が生じるのかは、研究対象の一つになります。

 結晶シリコン型の場合、カバーガラスが割れたからといって、それがセル(発電素子)の損傷につながらない限りは、一気に発電量が落ちたりせず、発電を続けている場合があります。割れた部分から水が侵入することによって、セルに異常をきたすことで、発電量がガクンと落ちたりするようです。

 このCIGSパネルの場合、カバーガラスが割れた直後、一定の期間は、セルはあるレベルの発電を続けていました。

 その後、雨水や空気が割れ目からセル内に浸透することによって、セルを構成する薄膜の劣化が進んでいったようです。最終的に、セルはまったく発電しなくなりました。

――発電しなくなった理由はわかりましたか。

 架台から取り外して、EL検査をしてみると、全面にわたって、ほぼ発光しなくなっていました。セルが損傷して発電できなくなっていることが、検査からもわかりました(図5)。

図5●ガラスが割れる前(左)と、割れてから約半年後(右)のEL検査
図5●ガラスが割れる前(左)と、割れてから約半年後(右)のEL検査
セルが損壊し、ほぼ光らなくなっている。I-V特性(左下)や、ストリング全体の発電量(右)にも現れる(出所:産総研 太陽光発電研究センター)
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 割れの起点の近辺だけでなく、パネル全面に放射状に広がった割れの下のあちこちから、膜が劣化してセルが壊れてしまったのではないかと推測しています。

 九州センターの発電施設は、太陽光パネルをアレイの形で設置しています。このように、まったく発電しなくなったCIGSパネルが直列・並列に接続されているので、このパネルを含むCIGSパネルのストリングは、発電しなくなったパネルに影響されて、発電量が本来よりも低く抑えられた状態で発電が続いています。

 このような状況も、新たな研究テーマとなっています。