メガソーラービジネス

「カバープランツは除草対策で最も経済的」。緑地雑草科学研究所・理事に聞く(第5回・前半)

メガソーラービジネス・インタビュー

2017/05/24 05:00
金子憲治=日経BP総研 クリーンテック研究所
向かって左から、伊藤操子氏、佐治健介氏、長沼和夫氏、伊藤幹二氏

緑地雑草科学研究所(福井県鯖江市)で理事を務める伊藤幹二氏(マイクロフォレスト リサーチ代表)と伊藤操子氏(京都大学名誉教授)に、メガソーラー(大規模太陽光発電所)における雑草対策について聞く連載コラムの各論編(関連記事)。前回の「除草剤」に続き、「被覆植物(地被植物、カバープランツ)」を2回に分けて取り上げる。2回のうちの前半は伊藤両理事による被覆植物の概論。後半では、芝生に詳しい長沼和夫(ゾイシアンジャパン研究開室長)氏と、植栽シートに詳しい佐治健介(緑地雑草科学研究所・事務局長、白崎コーポレーション)氏が芝と植栽シートの詳細を解説する。

クローバーに防草効果はない

――メガソーラーの除草対策として、クローバー(シロツメグサ)をパネルの下や法面に植栽しているのをよく見かけます。除草対策としての「被覆植物(カバープランツ)」には、ほかに、どんな植物があるのでしょうか。

緑地雑草科学研究所理事の伊藤幹二氏
(マイクロフォレスト リサーチ代表)

伊藤(幹) メガソーラーの被覆植物として現在、クローバーがよく使われていますが、その効果については、疑問視しています。これについては後で詳しく触れますが、被覆植物と言っても、表土保全や緑化、そして除草対策など目的に応じてさまざまな種類があります。クローバーは、除草対策に向いた被覆植物ではないということです。

 施設内の雑草管理に被覆植物を使う工法には、大きく3タイプあります。伝統的な「芝生化工法」と「ササ類緑化工法」、そして、比較的、新しい技術である「植栽シートによるカバープランツ植栽工法」です。

 また、敷地外からの雑草の侵入を防ぐ方法として、フェンス脇などの境界線に樹木を植える工法もあります。地表面を覆うわけではありませんが、除草対策に有効です。加えて防風や防雪の機能も併せ持ち、景観上も利点が多い手法です。

――芝生というと、どうしてもゴルフ場を思い浮かべます。

伊藤(幹) ゴルフ場に芝を植える工法は、もともとゴルフと共に海外から入ってきたものです。実は、日本では、そのはるか昔から、芝、そしてササを積極的に表土保全のために使ってきました。1500年もの歴史があります。

 例えば、芝は、江戸時代に砂防や土砂流出を防ぐために盛んに植えられてきました。いわば、日本土着の「治山治水工法」とも言えます。明治時代になってからは、軍馬の育成場や飛行場などにも植えられました。

ササを植えてきた日本人

伊藤(幹) ササ類も同様です。実はササは、もともと熱帯系の植物ですが、日本では北海道でもよく見かけます。それは、山の崩壊を防ぐために人間が植えてきたからです。日本は雨が多く、また北国では雪や凍土が融けると斜面が崩壊しやすくなります。ササを植えることでそうしたリスクを軽減してきたのです。加えて、水田に埋め込んで土壌改良にも使われるなど、稲作にも密接に関わっていました。

北海道内の道路法面に群生するササ
(出所:日経BP)
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 ササは葉によって地面を密に覆うことで、他の植物の成長を抑制します。加えて、落ちた葉が地表に積み重なっていくことでも、雑草を防ぐ効果は絶大になります。

――ササは、どんな形で植えつけるのですか。

伊藤(幹) ササ類のポット苗は、1970年代から生産され始め、1990年代には1000万近く出荷されたようです。最も多く使われたのはコグマザサでした。最近では、地域に自生するササをポット苗で購入して、植え付けるのが一般的になっています。地域の農林事業者などと連繋し、近くの山などに自生するササを移植するという形も可能で、コスト的には最も安いかもしれません。

 ササは、芝に比べても管理が容易で、年に1回程度、刈り込めば十分だと思います。日本のメガソーラーの除草対策では、最も適した手法になる可能性を秘めています(図1)。

図1●主要なササ類4種の特性
(出所:京都大学大学院地球環境学堂・柴田昌三氏「緑化植物としてのササ類」、緑地雑草科学研究所「草と緑・7号」・2015年12月)
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 芝、ササとも、かつては日本の里山を支えてきた重要な植物でした。戦後、こうした場所の多くにスギ、ヒノキが植林されたので、日本人の多くはこうした歴史を忘れていますが、いまでも、国内の土木分野における緑化工法の基本は、芝かササです。

――植栽シートによるカバープランツの植栽工法とは、どんなものですか。

伊藤(幹) 透水性の高いシートを地面に敷き、そこに穴を開けてカバープランツを植え付けます。シートの上を茎がはって伸びることで徐々に地面を覆っていく工法です。この場合、シートにも防草効果がありますが、あくまでカバープランツの初期段階の成長を助ける役割で、防草シートのように長期間、雑草の発生を防ぐのが目的ではありません(図2)。

図2●植栽シートで施工したシバザクラの例
(出所:白崎コーポレーション)
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 芝やササは、通常、植栽シートを使わずに播種や張芝などの方法で植え付けます。植栽シートを併用するカバープランツには、ツル植物やシバザクラなど様々な植物があり、後ほど詳しく紹介しますが、いずれもシートを併用することで、少ない植え付け株で安定的に地表を被覆できるため、こうした工法を採用します(図3)。

図3●公園に植栽した芝の例
(出所:ゾイシアンジャパン)
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防草効果は「永久的」

――芝やササなど、被覆植物がうまく根付いた場合、どのくらいの期間、防草効果が続きますか。

伊藤(幹) 雑草管理の手法の中で、「被覆植物が最も経済性に優れる」というのは世界の常識になっています。その理由の1つは、効果の永年性にあります。一度、植え付けて根付けば、20年はもとより、ほぼ永久に防草効果が期待できます。

 ただ、ここで勘違いして欲しくないのは、「何もしなくても草が生えてこなくなる」というわけではありません。被覆植物で地表を覆ったとしても、そこに適応した少数の草が生えてきます。雑草管理の形態が、「放置した裸地」から、「ある特定の被覆植物をベースとした土地」に変わったということです。

 裸地には雑多な雑草が生えるため管理が大変ですが、特定のカバープランツで覆われると、そこに生える雑草は予想でき、管理が大幅に楽になり、その効果はほぼ永久に続きます。雑草管理の手法の中で最も経済的というのはそういう意味です。

 機械による刈り取りに比べると、初期投資はかかりますが、例えば、その土地に適切な被覆植物を植え付け、年1回程度の除草剤散布など、最初に計画的な雑草管理を設計しておけば、草刈りはほぼ不要です。20年間の投資対効果で考えれば、ずっと経済的です。

 例えば、機械による刈り取りのコストを1回100円/m2とした場合、10年間で2600円/m2のランニング費用になります。これに対して、芝生による被覆では初期投資を2000~3000/m2、10年間のランニングは330円/m2程度とすれば、トータルで2330円/m2で済む可能性もあります(図4)。

図4●雑草管理費用の比較(円/m2
(出所:伊藤幹二氏・緑地雑草科学研究所理事)
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 被覆植物の施工コストは、種類や広さ、植え付け方法でかなり異なります。この表で示したコストは一例です。メガソーラーのような大面積を一度に施工する場合、表示したコストより下がるのが一般的です。ただ、いずれにせよランニングコストを考慮すれば、10年で機械除草より低コストになります。20年でみれば経済性はさらに高まります。

 加えて、土壌保全や表面流水の発生抑制、地表温度の低下など、除草以外にも多くの機能を期待できます(図5)。

図5●植被と人工構造物の環境負荷の比較(注:「+」少ない~「++++」極めて多い)
(出所:伊藤幹二氏・緑地雑草科学研究所理事)
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「アレロパシー」が雑草を抑制

――冒頭で、クローバーは防草効果を目的とした被覆植物として適さない、とのことですが、そもそも被覆植物が防草効果を発揮するのはなぜですか。

伊藤(操) 被覆植物で地表が覆われた場合、ほかの植物にとって、まず物理的にスペースが閉鎖され、日光が遮られます。これが、雑草の発芽・発生を阻害します。加えて、根などから雑草などの成長を抑える化学物質を出す種類も多く、これは化学的抑制力(アレロパシー)と呼ばれます。

 例えば、多年草のダイコンドラは、ほふく茎で拡がるため、被覆植物としてよく使われます。この植物は、アレロパシーが非常に強く、見た目以上に防草効果の高いことで知られています(図6)。被覆植物には少なからずこうした特性があります。

図6●ダイコンドラを植栽した例
(出所:伊藤操子氏・緑地雑草科学研究所理事)
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 防草対策として適しているのは、拡大力と再生力があり、長い年月にわたって持続性があること、季節による通年性、そして、ある程度、景観的な要素も必要です。加えて、事業性を考えると、肥料や水やりが不要で管理コストが低いことも重要です。また、雨が少なく日照の良いメガソーラー立地を想定すれば、乾燥に強い方が向いています。

 外観上、地表を覆っている植物だとしても、こうした要素を加味する必要があり、何でも雑草対策に使えるというわけではありません。

 こうした視点から、クローバーが防草対策に向かないのは、通年性の問題です。本来、寒地型で夏の高温と乾燥によって衰退し、雑草と置き換わる可能性があります。そもそもクローバーは、空中窒素を固定するため、イネ科の牧草と一緒に使われて、収量を高める役目を持っていました。これを雑草対策としてメガソーラーの下に植栽した場合、土壌が肥沃になるので、かえって雑草の繁茂を促してしまいます。

伊藤(幹) メガソーラーの雑草対策として安易に使われてしまったのは、クローバーを緑化に使っている造園関係者からの提案かもしれません。種を播くだけで簡単に植栽できることや、美観上も良いこと、そして何よりコストが安いことが背景にあると推測しています。しかし、本来、「やってはいけないこと」です。

「高麗芝を植えてはいけない」

――クローバーのほかにも、被覆植物の活用で、「やってはいけないこと」はありますか。

緑地雑草科学研究所理事の伊藤操子氏
(京都大学名誉教授)

伊藤(操) コメツブツメクサなど、輸入された広葉のカバープランツを裸地に安易に播いている例もありますが、これも向いていません。生育・開花時期が短く、枯れた際の外観がきたなく、美観上の問題があります。

 冒頭で被覆植物の代表例として、「芝」が挙げられましたが、メガソーラーで使う場合、特性を考慮して種類を選ぶことが大切です。例えば、ゴルフ場でよく使われる高麗芝、寒地型の洋芝は、防草効果が小さい上、環境適応性の幅が狭く、集約的な管理が必要です。

 また、バミューダグラスも刈り取り回数が多くなります。ゴルフ場などでは良いのですが、雑草対策を主目的に導入する場合、管理コストが高くなりすぎます。

 一方、芝などの被覆植物が雑草に負けるケースもあることから、むしろ、「雑草自体で被覆する」との考え方も聞きますが、これは大きな間違いです。雑草の植生は、形態や生育期が不揃いな多様な植物種の集団なので、均一的な管理は非常に難しくなります。

 被覆植物が雑草に負けて衰退するのは、種類の選択がよくないのか、管理が悪いために起こることがほとんどです。本来、適切に選び、管理された被覆植物なら、どんな雑草種にも優勢を維持できます。

「樹幹流」が雑草を抑制

――地面の被覆のほか、境界線への植樹によっても、雑草を防げるのですか。

伊藤(幹) 敷地の境界にある種の針葉樹や広葉樹を植えることで、美観を高めるだけでなく、敷地外からの雑草の侵入を防いだり、成長を抑制する効果があります。日本に自生する針葉樹はすべてこうした特性を持っています。

 これは物理的に種の侵入を減らすだけでなく、「樹幹流水」の効果もあります。「樹幹流水」とは、樹木に降った雨が幹から流れ落ちる水のことです。スギやヒノキなどの針葉樹の樹幹流水の多くは、葉から樹皮を伝っていく間にPH(酸度)が4近くの酸性を帯びます。そのため木の幹を中心に2~3m程度の範囲に草が生えにくくなります。

 広葉樹の中には、樹幹流水に成長抑制物質を含み雑草の発生が少ないものもあります。雑草抑制効果の高い日本自生種としては、針葉樹のほか、ヤマブキやサカキ、ヒイラギなどの広葉樹もあります(図7)。逆にコナラなど、土壌を肥沃にして雑草を増やしてしまう樹木もありますので、植樹の際には注意が必要です。

図7●雑草発生を抑制する効果の高い樹種
(出所:伊藤幹二氏・緑地雑草科学研究所理事)
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 メガソーラーは20年間、運用する施設です。こうした長期的な視点も求められる施設であれば、植樹まで含めて設計すべきです。北側はもちろん、園芸用の樹種であれば、南側に植えて、低く剪定できます。防草効果のほか、防風や防雪、防塵のほか、景観や自然環境と馴染むなど、多面的な機能が期待できます。

 (第5回・後半は、芝と植栽シートについて詳しく解説します。5月26日掲載です)