土地に限りのある日本において、大型ビルの屋上への太陽光パネル設置は、今後、さらに太陽光発電が普及していくカギの一つとなっている。公共施設を多く抱える地方自治体の中にも、公民館や文化施設、公立学校の屋上を貸し、太陽光発電の導入を促進する取り組みが増えている。

 一方で、こうした公共施設への設置に特有のトラブルも出てきた。今回は、九州の地方自治体における例を紹介する。

 小学校の校舎の屋上を貸したところ、発電事業者による太陽光パネルの設置後、校舎内において、基準値を超えた濃度でトルエンが検出されたというものである。

 トルエンは揮発性有機化合物(VOC)の一種である。いわゆる有機溶剤と呼ばれる化学物質の一つで、短時間に大量に摂取すると健康被害の恐れもある。

 このため、工場など有機溶剤を多く使う事業所では、大気汚染防止法によって排出規制が実施されているほか、室内における濃度の基準値が定められている。学校などの建物の室内環境に関しても、建材や塗料などから揮発するVOCに対し、基準値が設けられている。

 この地方自治体では、2013年度から、太陽光発電向けの屋根貸しを始めた。太陽光発電事業者が公共施設の屋根に太陽光パネルを設置し、固定価格買取制度(FIT)に基づいて売電するとともに、地方自治体に賃借料を払うという仕組みだ。

 一定以上の太陽光パネルを設置できる公共施設を対象とするため、屋上の面積が300m2以上あること、一定の耐震性や耐久性を満たしていること、発電を阻害するような障害物がないこと、今後5年以内に屋上を修繕する計画がないことなどを条件に、候補となる建物を絞り込んだ。

 8カ所の公共施設の屋上を活用することを決め、太陽光発電事業者を募集した。このうち4カ所が、小学校の校舎の屋上だった。

 4カ所で発電事業者への屋根貸しが決まり、いずれも2015年3月に太陽光発電システムが稼働した(図1)。3カ所が小学校、1カ所が文化センターである。小学校3校の屋上は同一の発電事業者が借り、文化センターの屋上は別の発電事業者が借りている。

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図1●3校の小学校の屋上に太陽光発電システムを設置
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図1●3校の小学校の屋上に太陽光発電システムを設置
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図1●3校の小学校の屋上に太陽光発電システムを設置
同一の太陽光発電事業者に貸している

 太陽光発電システムを設置した小学校の校舎内のトルエンの濃度が、基準値を上回っていると分かったのは、市の教育委員会による測定がきっかけだった。