「何もないことを当たり前にする」メンテナンス

 美馬のメガソーラーは、2012年12月の稼働開始から、ほぼ5年が過ぎた。その間、大きなトラブルはなく、発電の状況も良好としている(図6)。

図6●稼働後の5年間で大きなトラブルはなく、発電の状況も良好
図6●稼働後の5年間で大きなトラブルはなく、発電の状況も良好
2012年12月に稼働開始(出所:日経BP)
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 導入した京セラ製の太陽光パネルは、「経年劣化も感じることがないくらい」という。年間発電量は、当初の計画に対して上振れが続いている。

 他の機器や資材についても、問題は生じていないとする。

 ただし、同社の長浜谷直樹取締役・最高執行責任者(COO)は、「太陽光発電所は、屋外に設備を野ざらしにする性質上、自然環境などに起因する発電設備の外傷は、どんなに理想的な方法で設備を導入したとしても避けられない場合がある」と考えている。そのため、日常的に点検を欠かさず、予防保全を続けていくとしている。

 PCSは、2018年に部品の交換を含む節目の時期を迎える(図7)。メーカーが推奨する修繕計画に基づいて、今後、該当する項目の状態を確認し、交換を含む修繕を実行していくことになる。

図7●部品の交換を含む節目の時期を迎えるTMEIC製のPCS
図7●部品の交換を含む節目の時期を迎えるTMEIC製のPCS
20年間の買取期間中に大きく3回の節目がある(出所:日経BP)
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 一般的に、メーカーはより安全な運用を実現できるような計画を推奨するため、実際の状態を確認すると、交換を先延ばしできる状態の項目も出てくる。

 ガイアパワーの場合、こうして修繕を先延ばしにできる状態が確認できた項目であっても、基本的には、メーカーが推奨する計画通りに修繕していく方針としている。

 長浜谷COOによると、予防保全を重視し、「何もないことが当たり前の状態を維持するようなメンテナンス」を続けていく一環で、このような方針を採る。

 同社の発電所では、電気主任技術者も自社の有資格者でまかない、O&M(運用・保守)を一貫して自社で担う。

 第1種の電気主任技術者も2人在籍している。このうち1人は、鹿児島県鹿屋市・大崎市に建設中の出力約92MWの電気保安管理業務を担当する。

 それぞれの発電所において、電気主任技術者の資格を持つ担当者が、日常的に巡回して不具合や異常の兆候を見つけると、必要に応じて土木の担当者なども現地に向かい、いち早く対処する(図8)。

図8●パネル同士を結ぶ電線などはすっきり配置
図8●パネル同士を結ぶ電線などはすっきり配置
信頼性や保守性を高めるための設計の一つ(出所:日経BP)
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 周辺地域の被災時や、台風の通過や大雨の後などは、状況が落ち着けば当日中、遅くとも翌日には現地に向かい、点検する。

 台風の後、ある発電所で、風に吹かれやすい場所に設置されていた電線を納める金属製のラックが浮き上がっている状況を発見した。その時点で発電に悪影響を及ぼしていなかったものの、予防保全の方針から、その送電先となるPCSの稼働を止めたことがある。

 万が一、ラックの中のケーブルが、風に煽られるなどして損傷し、短絡することを恐れて措置したとしている。

 PCSを停止すると、該当する電線が関係しない接続箱からの送電分まで、発電ロスとなってしまう。このロスを最小化する手法という面もあり、施工中の案件の一つでは、従来の集中型のPCSに加え、分散型PCSを採用した発電所を併設した。分散型にも特有のリスクがあるため、集中型と比べながら利点とリスクを検証していきたいとしている。

 日常的な点検のうち、太陽光パネルの点検については、効率化の余地があるとみている。同社の発電所では、法定点検に加えて、日常的に太陽光パネルの不具合の有無を、電気的に点検している。

 現在は、アイテスの太陽光パネル点検装置「ソラメンテ」を採用し、点検担当者が巡回しながら、持ち運び型の装置を使って点検している。

 この作業を効率化する目的で、ドローン(無人小型飛行体)の活用を検討している。自社の稼働済み発電所だけで19カ所あるため、機体を購入して自社で運用する方針という。点検の効率を上げるだけでなく、ドローンの点検に必要な技術を社内に蓄積しながら、事業全体の効率アップを目指している。

●発電所の概要

発電所名美馬ソーラーバレイ
所在地徳島県美馬市美馬町
面積約1万9000m2
太陽光パネル出力1.189MW
パワーコンディショナー(PCS)出力1MW
年間予想発電量約128万9930kWh(一般家庭約350世帯分の消費電力に相当)
建設費約3億5000万円
発電事業者美馬ソーラーバレイ(美馬市:ガイアパワー44%、市民による出資会社など56%)
EPC(設計・調達・施工)サービスガイアパワー・北岡組共同企業体
O&M(運用・保守)ガイアパワー
太陽光パネル京セラ製(出力242W/枚)
PCS東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製(出力500kW機・2台)
売電開始時期2012年12月16日
売電価格(税抜き)40円/kWh