三重交通(津市)は、同社の四日市営業所にある大型バスの駐車場に、出力約457kWの太陽光パネル付きの屋根を設置し、6月7日に売電を開始した(図1)。
大型バスの駐車場に、太陽光パネルを載せた屋根を設置するのは珍しい。
四日市営業所のほか、津市にある中勢営業所、名張市にある伊賀営業所でも同じように太陽光発電システム付きの屋根を設置している。3カ所で合計出力約1.6MWの太陽光発電設備を導入する。
これまで、三重交通の大型バスの駐車場には、屋根がなかった。
導入のきっかけとなったのは、グループ会社の三交不動産からの問い合わせだった。三交不動産は、三重県内に21カ所・合計出力約60MWの太陽光発電所を稼働するなど、太陽光発電を積極的に開発している。
三交不動産は、グループ企業の所有する遊休地などを太陽光発電所の用地として活用したいと考え、グループ各社に候補地の情報を求めていた。
三重交通には、候補地として提供できそうな土地はなかった。ただし、事業所の建物は多く、屋根上のスペースは多い。この問い合わせを機に、建物の屋上などを活用し、固定価格買取制度(FIT)に基づく太陽光発電を事業化できないか、検討し始めた。しかし、屋根の耐荷重性などが制約となり、事業化は断念した。
こうした中、大型バスの駐車場に、太陽光パネル付きの屋根を設置する提案を受けた。このアイデアを持ち込んだのは、JFEエンジニアリング(東京都千代田区)の100%子会社であるJFEテクノス(横浜市鶴見区)だった。同社は、今回の3カ所のEPC(設計・調達・施工)サービスを担当することになる。
三重交通は元々、大型バスの駐車場を屋根付きにする利点を、バスの運用面から感じていた。主に、車輌の点検や保守における作業性が向上すること、車内空調の消費エネルギーを削減できることである(図2)。
バスの運転手は毎日、営業所の駐車場からバスを出発させる前に、車両に異常がないかどうかを確認する。雨などの荒天時には、この点検の作業環境が悪くなり、運転手の身体的な負担が増す。
また、雪が積もったり、霜が張ったりした時には、前方や側面の窓から、雪や霜を落としてから発車する。
駐車場に屋根が付いていれば、こうした荒天時の点検作業の環境が改善するほか、雪や霜を落とす作業が減り、バスの運転手の負担を軽減できる。
夏季の高温時には、出発して乗客を乗せる前に、バスの車内に冷房をかけ始めることになる。駐車場に屋根が付いていれば、車内の温度上昇を抑えられ、冷房に使う消費エネルギーを削減でき、経営的にも燃料費の節約になる。
また、駐車中、土埃や風雨による車体の汚れを抑制でき、洗車回数の減少も期待できるほか、車体の塗装を保護することにもつながる。
こうした多くの利点があるものの、大型バスの駐車場に新たに屋根を取り付けるには、費用がかかる。JFEテクノスの提案は、この課題を解消できるものだった。
すなわち、太陽光パネル付きの屋根を設置し、FITを活用して売電することで、屋根の新設費を回収できるようにした。
三重交通にとって、バス事業で利点の大きい駐車場への屋根設置に、太陽光発電事業を組み合わせることで、コスト負担面の障壁を解消できる事業モデルとなった。