長野県北佐久郡に広がる白樺高原は、夏でも涼しい避暑地として知られる。八ヶ岳の西端にあり、中央本線の茅野駅から北に大門街道を登って白樺湖を過ぎ、さらに東に位置する。逆に、西に向かうビーナスラインを走れば、車山高原、霧ヶ峰と眺めの良い高原地域が続く。

 長門牧場は、この高原の一角、蓼科山の麓に位置する(図1)。標高は約1430mになる。長門町が第3セクター方式で運営している。

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図1●標高約1430mの高原にある長門牧場
図1●標高約1430mの高原にある長門牧場
上の画像の右奥にメガソーラーが見える(出所:長門牧場)
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 この牧場の敷地に2018年1月、出力約18MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)が稼働を開始した。中部電力グループのシーエナジー(名古屋市中区)が土地を借り、発電所を開発・運営している。

 長門牧場は、約211haという広大な牧草地を有し、自家産の牧草を使って約200頭の乳牛を飼育している。この乳牛による新鮮な生乳を使い、牧場内で乳製品に加工し、来場者に販売したり、レストランで料理して提供したりしている(図2)。

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図2●体験型の牧場として知られる
図2●体験型の牧場として知られる
牧草から育て、約200頭の乳牛を飼育している(出所:長門牧場)
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 乳牛の餌となる牧草から自家生産する酪農を基盤に、生産・製造・販売に一貫して取り組む事業モデルを構築している。来場者は年間約20万人に達し、蓼科観光の名所の一つとなっている。

 広大な牧場という空間で、チーズや牛乳、アイスクリーム、ヨーグルトなど新鮮な乳製品をその場で味わえるほか、乳製品の物販や家畜に触れられる場もある。乳製品やビーフシチュー、ピザなど、原料の育成からこだわりのある食事も人気を集めている。

 しかし、経営上の課題もある。来場者の需要に人手や設備が、十分には追いついていない点である。

 例えば、チーズなどの需要に対して、搾乳の能力が不足している。搾乳ロボットを十分に配備できれば、この課題はある程度、解消する。また、アイスクリームの製造機は約25年前に導入した当時のものを使っており、繁忙期の需要を十分に満たすために、新規の設備を導入したいという。

 こうした継続した設備更新や追加投資が必要でありながら、現状の収益性では、十分な投資対効果を見込めなかった。この課題を解消する手段として、長門牧場が活路を見出したのは、遊休地を賃貸し、太陽光発電所を誘致することだった。

 土地の借地料が新たな収入に加わることによって、必要な規模を維持しつつ、今後も長期的に牧場として運営し続けられる経営基盤を確立できると考えた。

 じつは当初、固定価格買取制度(FIT)の施行を機に、長門牧場が自ら、メガソーラーを開発・運営する構想を持っていた。しかし、太陽光発電所の開発や運営には、牧場とはまったく異なる技術や知見が必要になる。最終的に、独自の開発・運営は断念した。

 こうして導入した最初のメガソーラーは、NTTファシリティーズによる出力約4.2MWの発電所だった。自社開発を断念した後、同社を紹介されて土地を貸し、2015年に稼働を開始した。

 次に稼働したのが、シーエナジーによる出力約18MWのメガソーラーだった(図3)。こちらは当初からシーエナジーのメガソーラーを誘致し、開発してもらう方針だったという。

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図3●シーエナジーが開発した出力約18MW
図3●シーエナジーが開発した出力約18MW
牧場の入り口から最も遠い位置にある。発電設備越しに、蓼科山が大きく見える(下)(出所:上はシーエナジー、下は日経BP)
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 シーエナジーがメガソーラーを設置した場所は、長門牧場の北東に位置する場所で、牧場の入り口からは最も遠い場所にある。飼育している乳牛の頭数が減ってきたことに加え、北東の土地は牧場内の中でも、相対的に牧草の育成に向かない場所だった。こうした事情から、メガソーラーの誘致を決めた。敷地面積は約33haある。

 太陽光パネルの容量は約18.7MW、パワーコンディショナー(PCS)の定格出力は16.5MWとなっている。