鹿児島空港からクルマで約1時間、薩摩川内市入来町の八重地区は、鹿児島県西部の山間にある。戦前は、小さな山村だったが、戦後、入植者が増え、複数の集落ができた。

入植者が切り開いた跡地

 八重鹿野の一帯もその1つ。クルマ1台がやっと通れるほどの細道を上っていくと、突然、森が開け、「開拓記念の杜農園」との碑が立つ。出力1.8MWのメガソーラー「薩摩川内開拓跡地太陽光発電所」は、この記念碑のさらに奥、山頂に向かう傾斜地にある。2016年5月に着工し、今年1月に運転を開始した(図1)。

図1●開墾地に建設した「薩摩川内開拓跡地太陽光発電所」
図1●開墾地に建設した「薩摩川内開拓跡地太陽光発電所」
(出所:日経BP)
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 周辺一帯は、最盛期には約40世帯を数えたというが、徐々にほかに移り住み、現在、夜間人口はゼロ。メガソーラーの隣地には瓦屋根の民家が残るが、住人はいない。「薩摩川内開拓跡地太陽光発電所」との名称は、かつてこの土地が、入植者の熱意と多くの汗によって切り開かれた土地だったことをしのぶ意味も込めた(図2)。

図2●今は暮らす人のいない八重鹿野の開拓地
図2●今は暮らす人のいない八重鹿野の開拓地
(出所:日経BP)
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 メガソーラー用地は、3.5haの細長い土地ながら高低差は約50m。この急斜面を段状に開発し、かつては農園などを営んでいたが、世代が変わる中で使われなくなり、草と灌木の繁る荒地になっていた。そんななか、地主が太陽光発電への活用を思い付いた。

 とはいえ、険しい山間である上に北向き斜面。太陽光発電事業にとって、典型的な「悪立地」だった。太陽光デバロッパーが、飛び付く立地ではない。だが、相談を受けた自然電力(福岡市中央区)は、事業性を確保できると判断、土地を購入し、開発に乗り出した。

 斜面ではあるが、段状に整地されており、出力2MW近くのパネルを設置できそうなこと、用地の中ほどに比較的、広くまとまった緩斜面を確保できること、そして、連系する高圧配電線が隣接する道路まで来ていることなど、事業性に有利な面もあった。

 同社には、土木技術の専門家も多く在籍しており、これまでにも、こうした北向き斜面でのメガソーラー事業を軌道に乗せた経験もあった。