前回は超小型衛星の要素技術をサブシステムごとに紹介した。最終回となる今回は超小型衛星の特徴を生かしたミッションや超小型衛星のビジネスへの利用について紹介したい。

 超小型衛星はこれまで見てきたように、大型衛星と比較をすると機能は多少劣るものの大幅に安い価格での製造が可能であること、比較的開発期間が短くて済むことなどが特徴として挙げられる。この特徴を生かし、数多くの衛星を打ち上げて群(コンステレーション)として運用することにより、性能やサービスのカバー範囲の不足を補うだけではなく、従来にない新たな付加価値を持つサービスを展開していこうとする企業がベンチャーを中心として数多く出てきている。

通信・インターネット衛星

 大型衛星を含めた衛星利用の市場では静止衛星による通信・放送サービスが市場の大半を占め、小型~中型衛星によるコンステレーションによる地球全域の通信サービスも既に行われている。この大きな市場に超小型衛星が大きな構想を掲げて熾烈な競争を繰り広げているが、現在の超小型衛星によるコンステレーション計画を紹介する前に、まず現在の通信衛星の状況を振り返っておきたい。

 通信衛星による音声・データ通信サービスは、静止軌道に1~数機の衛星を投入するものと、高度数百~1500kmの低軌道に数十機投入する形の2種類が挙げられる。前者の代表が英Inmarsat社の音声・データ通信サービス「Inmarsat」、後者の代表が米Iridium Communications社の同「Iridium」である(厳密には両者の中間的な軌道を利用する英O3b Networks社の「O3b」のようなサービスもある)。

 静止衛星であれば1機で非常に広い範囲をカバーすることが可能である。このため、少ない機数で広域をカバーすることが可能となるが、往復で7万km以上の通信をする必要がある。従って、遅延が大きい、電波が弱いために地上の通信端末の小型化が難しいといった課題が存在している。

 一方、低軌道の衛星の場合は、電波強度が相対的に強いために小型端末でも対応でき、遅延も静止衛星よりも小さくなる。しかし、衛星の総回線容量が小さく低速なサービスしか提供できず、地上から見て衛星が10分程度で移動してしまうため、常時通信サービスを提供するには数十機以上の衛星が必要となっている。

 Iridiumは、もともとは旧・米Motorola社が中心となって高度780kmに66機の衛星を投入して始じめた衛星電話サービスだが、巨額の設備投資費用を回収できずに倒産、再編を経て現在に至っている。他にも米Globalstar社、米ORBCOMM社といった事業者も低軌道に数十機の衛星を投入する形でのサービスを展開しているがいずれも一度倒産を経験している。

Iridiumの次世代機「Iridium NEXT」
図1 Iridiumの次世代機「Iridium NEXT」
画像:Iridium社
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