2016年3月、日本工業規格(JIS)の改正により、図面には「幾何公差」が必須となった。形体同士の位置に関する指示に関しては、寸法公差を適用せずに「幾何公差を用いることとする」と明解に規定されたからだ。ところが、現状では対応できていない日本企業が多いという。「技術者塾」において講座「JIS改訂で対応急務 図面コンサルでマスターする『幾何公差』の神髄」の講師を務めるプラーナーシニアコンサルタントの木下悟志氏が、JIS改正の意味と幾何公差の使い方のポイントを解説する。(近岡 裕)

プラーナー シニアコンサルタント 木下 悟志 氏
[画像のクリックで拡大表示]
プラーナー シニアコンサルタント 木下 悟志 氏
 工業製品の流通のグローバル化に伴い、部品や材料の海外調達が加速している。一方で、「あうんの呼吸」が通じる企業系列(系列)の見直しは珍しくない。こうした背景から、世界で通用する図面への対応が日本企業に対して叫ばれてきた。しかし、現実は相変わらず従来方式の図面が流通しており、グローバル図面に向けた対応はなかなか進んでいない。

 ところが、その流れを変え得る出来事が起きた。2016年3月、日本規格協会が幾何公差に関するJIS改正を行ったのだ。この改正では、加工手順や測定手法も含む生産システム全体をカバーする規格である「製品の幾何特性仕様(GPS)」規格への切り替えの勧告を制定し、日本企業に早急な対応を呼び掛けている。

 そこで、本稿ではJIS改正の本質とGPS化への障壁の現状について述べたい。

JIS改正の狙い

 JIS改正は、「製品の幾何特性仕様(GPS:Geometrical product specifications)─寸法の公差表示方式─ 第1部:長さに関わるサイズ」において、特に強調して記載されている。ここで述べられている勧告の要旨は以下のようになる。

 欧米諸国などにおいても、最近はGPSの概念が普及しつつある。一方で、日本では位置寸法にも現状の意味での寸法公差を適用する図面が、教育界でも通常に描かれている現状がある。そのような教育を受けた技術者が、企業において同様な図面を描く例が多く見受けられる。

 グローバルに適用されるべきGPS の考えの基に描かれた図面では、位置寸法(の公差)については、幾何公差が〔必要に応じて、理論的に正確な寸法・TED(Theoretical Exact Dimension)及びデータムの設定とともに〕適用されて、はじめて解釈に一義性が保証される。逆に言えば、現状の多くの日本の図面では、決して欧米諸国などの技術者には理解されないものになってしまう。

 こんな状況を、今後も看過するなら、極論すれば、いわば図面鎖国状態となり、日本人が描いた図面は海外では通用しないものとなり、日本の技術力に信用及び国際性がなくなってしまう可能性が今以上に大きくなることは必至である。