「位置度」と「輪郭度」の例

 具体的には、長さ寸法によって定められるサイズ形体(円筒および相対する平行2平面)の大きさを表す寸法を、特に「長さに関わるサイズ」と称することにし、形体の姿勢位置を表す寸法には幾何公差を適用することになる。

 これを図で説明しよう。図1に示す通り、従来は穴(形体)の位置を表す寸法にもサイズ公差を使っていたが、今後はこれを幾何公差で指示することになる。

図1●現行の図面の例。形体の姿勢、位置を表す寸法にサイズ寸法を使ってはならない。
[画像のクリックで拡大表示]
図1●現行の図面の例。形体の姿勢、位置を表す寸法にサイズ寸法を使ってはならない。

 幾何公差で指示した図例が図2である。ここでは形体のあるべき姿勢や位置の許容範囲を公差域という立体的空間で定義する。そのために公差域の基準となるデータムというものを厳格に指示する。この図例では、基準となるデータムは「A」「B」「C」の記号で示した面であり、幾何公差として指示されたものは、まず位置度で示された「C1」穴、「C2」穴の2つの穴である。

図2●幾何公差の図面例
[画像のクリックで拡大表示]
図2●幾何公差の図面例

 図1の従来の図示方式では、この穴の位置は単に「±0.1」などという指示だった。これは、単純に上面(データムAの反対面)の一面における端面(データムB、データムC)と穴中心との2点間距離で評価されていた。

 一方、図2の幾何公差を用いた図示では、位置度は「□」で囲まれたTED(理論的に正確な寸法)で表される理論的に正確な位置に対し、「穴の中心軸が直径0.05の円筒公差域の中に位置しなければならない」という立体的な公差域で指示されている。

 また、右下の波線形状部への指示は、図1の従来方式では、Rの中心位置とRへの公差指示にて行われている。だが、実はこれを正確に測定することは至難の技であり、実際には測定不可能として処理されることが多い。

 これに対し、図2では輪郭度という幾何公差で指示されている。これは、先ほどの穴位置に対する位置度と同じデータムに対し、「この波線部の形状がTEDであるRの中心位置と半径で形成された理想形状に対して±0.1の範囲にあるべき」と指示している。これを検証するためには、形状のポイント測定を行い、それが許容範囲内にあるかどうかを検証すればよい。Rの中心位置や半径を算出する必要がないので、正確に測定することが可能である。

 このように、幾何公差による指示は、従来は含んでいた曖昧さを図面から排除し、設計者が本当に求める形体のあるべき状態を指示することができる。かつ、言語の違いによって誤解が生ずる可能性がある注記を廃止し、世界共通の幾何公差記号を使うことで設計者の意図を明確に表すことが可能だ。

 気をつけるべきは、幾何公差に関して「単に従来の図面を幾何公差化すればよいのだろう」と誤解する設計者が多いことだ。だが実際には、幾何公差は正しい公差設計を行った上で使うことで始めて絶大な効果を示す。これも図で示そう。

 図2は端面からのデータム系(A、B、C)を使っていた。だが、図3では、C1穴とC2穴の穴位置を規制する位置度のデータムにB、Cがないことに注目してほしい。これは、「C1穴とC2穴の穴は位置決め穴であり、これら2つの穴が設計上重要な基準であり、端面Bと端面Cからの位置に関してはそれほど重要ではない」ことを表している。

図3●公差設計を反映した幾何公差の図面例
[画像のクリックで拡大表示]
図3●公差設計を反映した幾何公差の図面例

 つまり、この位置度は2つの穴の相互の位置、つまり中心距離に対する公差指示だ。かつ、この精度を保証した上で、これら2つの穴を新たな基準「データムD」にしようという指示なのである。

 こうすれば、公差計算を行う際に端面B、Cからの位置は無視でき、公差要因を減らすことができる。このように、幾何公差を活用することで設計品質は格段に上がる。

 多くの設計者が実践している公差計算(緊度計算とも言う)の目的は以下の通りだ。
[1]製品機能の実現
[2]製品品質の安定化
[3]部品公差値の決定
[4]重点管理ポイントの明確化(どこが基準で、どこを、どれだけに管理したいか!)

 これらを実施してから幾何公差を用いるか、実施せずに飛ばすかでは、全く違う図面となる。公差計算と幾何公差は「車の両輪」であると言える。