幾何公差普及への障壁

 ここまで幾何公差の導入による利点の一部を述べてきた。だが、日本企業に幾何公差が普及するには、依然として障壁が存在するのも事実だ。その最たるものは新しいツールへのアレルギー反応である。

 このアレルギー反応を示す人は、図面を作成する側と受け取る側の双方に存在する。作成する側では、検図者やベテラン技術者である。彼らからすると、図面が変わっても造り方が変わるわけではないし、特に困ってはいない上に、図面を受け取る側からの反発が怖い。一方、図面を受け取る側は、特に造り方を変えるわけではないのに、新しい図面の読み方を覚えることに抵抗感を覚える。加えて、立体的な公差域を保証するための3次元的な測定装置の投資がなかなかできないという事情もあり、コストアップ要求が怖い。

 だが、よく考えてみると、ものを造る側は従来から「基準」を必ず気にしていた。加えて、真面目にものづくりをする人は、立体的な公差域で自主的に出来上がりを確認していた。つまり、既に幾何公差的な考え方は根付いていたはずだ。確かに、それを自分たちの都合の良いように使い分けていたという事実はあるのだが。

 ただ、3次元的な測定装置の進化は日進月歩であり、3DCADの普及と歩調を合わせて確実に浸透していく。それを踏まえると、JIS改正と相まって、時代は幾何公差の普及に向かって進むことは確実である。後は、いつ決断するかだけだ。導入に当たっては、特定部門が先行するだけでは難しく、サプライヤーを巻き込んだ組織的な取り組みが必要となる。

 それぞれの企業でどうやって取り組むべきか真価が問われている。

参考文献
JIS改正 
1)製品の幾何特性仕様(GPS)-寸法の公差表示方式-第1 部:長さに関わるサイズ
JIS B 0420-1:2016
2)製品の幾何特性仕様(GPS)-長さに関わるサイズ公差のISO コード方式-
第1 部:サイズ公差、サイズ差及びはめあいの基礎
JIS B 0401-1:2016(ISO 286-1:2010)
3)製品の幾何特性仕様(GPS)-長さに関わるサイズ公差のISO コード方式-
第2 部:穴及び軸の許容差並びに基本サイズ公差クラスの表
JIS B 0401-2:2016(ISO 286-2:2010)