三菱電機は東京大学(大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻 准教授の喜多浩之氏の研究室)と共同で、SiC MOSFETのチャネル抵抗に大きな影響を与える要因を特定した (発表資料)。その要因を抑制することで、チャネル抵抗を従来比で約1/3にできる見込みである。その結果、例えば耐圧1200V前後のSiC MOSFETで、オン抵抗をおよそ20%削減できるとみる。

 MOS界面付近の電子移動度でみると、従来比で3倍にできるとする。SiCの電子移動度は1000 cm2/Vsあるものの、従来のSiC MOSFETでは「30 cm2/Vs前後」(三菱電機)にとどまっていた。今回の成果を生かすことで、「100cm2/Vsほどになるだろう」(同社)とみる。

従来は界面の凹凸の改善に焦点

 SiC MOSFETのチャネル抵抗は、MOS界面における(1)原子の振動と(2)界面の凹凸、そして(3)界面下の電荷による電子散乱に原因があるとされる。従来、SiCパワーデバイス業界では、(2)界面の凹凸と(3)界面下の電荷で生じる抵抗成分がチャネル抵抗全体に占める割合が多いとされてきた。このうち、界面下の電荷がチャネル抵抗に与える影響を実測で確認できていた。一方で、残りの原子の振動と界面の凹凸の影響度に関しては、計算で求めてきた(図1)。

図1 従来、界面下の電荷がチャネル抵抗に与える影響を実測で確認できていたが、残りの原子の振動と界面の凹凸の影響度に関しては、計算で求めてきた(図:三菱電機、以下同)
図1 従来、界面下の電荷がチャネル抵抗に与える影響を実測で確認できていたが、残りの原子の振動と界面の凹凸の影響度に関しては、計算で求めてきた(図:三菱電機、以下同)
[画像のクリックで拡大表示]

 その結果、例えば三菱電機の場合、チャネル抵抗全体に占める、(3)の界面下の電荷で生じる抵抗成分の割合は43%、(2)の界面の凹凸は同44%、(1)の原子振動は同13%とみていた。このうち、(2)の界面の凹凸を抑える研究開発に力を入れてきた。MOS界面付近に電子を流すデバイス構造を採用していたためである。この場合、(3)の界面下の電荷の影響を抑制するのは困難になる。

 SiのMOSFETの場合、MOS界面付近に電子を流していた。Si MOSFETで培ったデバイス技術のノウハウなどを活用するために、SiC MOSFETでもその設計を踏襲。MOS界面付近に電子を流していた。