「将来的にスポーツのライブ配信はテレビからOTT(over the top)へ移行する。高画質の4K/8K/16Kでの配信はネットのみになるだろう」――。サッカーJリーグとの、2017年シーズンから10年間で総額2100億円という巨額の放映権契約の締結で、一般に「OTT」と呼ばれるネット配信がスポーツの世界にもついに浸透し始めたことを強く印象付けたストリーミングサービス「DAZN(ダ・ゾーン)」。
その運営会社である英Perform Group(パフォームグループ)の“実態”は、あまり知られていない。同社はロンドンに本社を構えるデジタルベースのスポーツコンテンツ・メディア企業で、2500人以上の従業員を擁する。DAZNのほか、世界23カ国で展開するサッカーサイト「Goal.com」などのWebサイトの運営や、大会・リーグ運営団体などの公式映像のみを配信するプラットフォーム「ePlayer」、そしてブックメーカー(賭け屋)へのデータ提供を主な事業とする。
日本でも、NTTドコモとのパートナーシップ契約などにより、会員数は1年で100万人を突破。かつて“テレビ放送の聖域”とも言われていたスポーツのライブ中継で主役の座をうかがうDAZNが描く未来は・・・。Perform Group CTO(最高技術責任者)のFlorian Diederichsen(フロリアン・ディデリクセン)氏に聞いた。
――スポーツ中継はできるだけライブで見たいものだが、DAZNを使えばスマートフォン(スマホ)で、どこにいても楽しめる。現状、どれくらいのユーザーがスマホで見ているのか。
ディデリクセン氏 市場によって状況は異なるが、日本では多くの人がスマホでスポーツ中継を見ている(下の図からアクティブユーザーの約60%)。しかし、スマホでの視聴時間は長くない。アクティブユーザーの月間視聴時間は10~20時間程度だ。視聴時間が長いのはやはりテレビで、アクティブユーザーの使用比率は約40%だが、月間40時間強も見ている。スポーツファンは「試合をライブで見たいが、見るときはなるべく大きな画面でみたい」と考えていることが分かった。
日本でスマホの利用率が他国より高いのは、当社がNTTドコモとパートナーシップ契約を結んでいるため、「モバイルサービス」という印象が強いのが理由だと思う。
――OTTの利点の一つに、放送と違って新しいサービスを導入しやすいことがある。DAZNではどのような取り組みをしているのか。
ディデリクセン氏 Jリーグとのパートナーシップの下、2017年4月に「Jリーグ・ゾーン」を開始した。これは大1つと小2つの3画面で構成され、同時間帯に開催される3試合を同時に視聴できるサービスだ。どの試合を見せるかは、DAZNサイドがチャンスシーンを迎えた試合から随時選ぶ。もちろん、ユーザーが見たい試合に替えることもできる。
10月には「Jリーグ・ゾーン」をリニューアルした。オリジナルの司会者や解説者がつくほか、放送中にTwitterにハッシュタグを付けて投稿すると、司会者や解説者が投稿を拾って質問に答えてくれたりする。
さらに、キヤノン、富士通、米Intel社などもそれぞれ開発を進めているが、同様の「自由視点映像」の開発に取り組んでいる。スタジアムに多くのカメラを設置して3次元映像を作るシステムで、「仮想カメラ」で選手や審判、ボールの視点から映像を見られる。今までにない視聴体験ができる。