図1◎トヨタ自動車パワートレーンカンパニー製品企画担当・量産開発設計担当・常務理事・パワートレーン開発統括部部長の安部静生氏
[画像のクリックで拡大表示]
図1◎トヨタ自動車パワートレーンカンパニー製品企画担当・量産開発設計担当・常務理事・パワートレーン開発統括部部長の安部静生氏
 トヨタ自動車は2017年11月27日、車両の電動化技術に関する説明会を開催。1997年のハイブリッド車(HEV)「プリウス」の発売以来、20年間にわたって開発を続けてきた車両の電動化の3大要素技術であるモーターとインバーター(パワーコントロールユニット)、電池を中心に技術開発の進化を説明した。その後のQ&Aセッションで、パワートレーンカンパニー製品企画担当・量産開発設計担当・常務理事・パワートレーン開発統括部部長の安部静生氏が、報道陣からの質問に答える形で、現時点におけるトヨタ自動車の次世代車に関する考えを披露した(図1)。

「それはユーザーが決める」

──「電気自動車(EV)が近距離用途」「HEV・プラグインハイブリッド車(PHEV)が乗用車全般」「燃料電池車(FCV)が中・長距離用途」と、トヨタ自動車は将来の自動車の「すみ分け」に関するイメージ(未来予想図)を公表してきた(図2)。だが最近、日産自動車が1回の満充電で航続距離(以下、航続距離)が400kmのEV「リーフ」を発売するなど、EVの航続距離がエンジン車に遜色ないレベルに来ている。未来予想図を変化させないのか。

安部氏:確かに、EVの航続距離は延びている。だが、「すみ分け」のイメージはあえて変えていない。現時点では、ユーザーにとってベストの使い方だと想定されるのが、あのイメージだからだ。今、航続距離が400kmだから普通のクルマになったと言われたが、それでもまだまだ足りないと思う。EVのユーザーは「電欠(電池切れ)」が心配だ。現状では残り100km近く走れる状態で赤ランプ(充電を促すランプ)が点灯する。つまり、300km以上は電欠が怖くて走れない。従って、400kmと言いながら300km以内で使うことになる。

 走行条件の影響も受ける。EVは電気を使うが故に、負荷が高いほど損失が2次関数的に増えていく。これは物理の法則だ。そのため、例えば高速走行ではガソリン車以上に走行距離が目減りする。ある走行モードで航続距離が400kmといっても、高負荷で走行すれば200kmに短くなる可能性もある。このように技術的な課題がまだあるため、航続距離の観点からEVはまだ「普通のクルマ」とは言えないと思う。

 普通のクルマとは言えないもう1つの理由は、充電の問題だ。エンジン車は航続距離が500km以上あり、そのためのエネルギーを3分間以内で充填できる。これに対し、EVは充電時間が家庭用電源では十数時間かかり、急速充電でも何分というレベルには至っていない。これを踏まえると、少ない電池であるほど、充電時間が長い弊害から逃れることができる。少ない電池で使用上、何の遜色もないのは、やはり、短い航続距離のEVということになる。以上から、現時点でもまだ短い航続距離の方がEVには向いているという言い方になる。

 一方で、我々はユーザーが望むのであれば、やはり、その領域にクルマを用意したいと思っている。航続距離の短さと充電時間の長さの問題によらず、皆様に買っていただけるEVを開発することを目指してはいる。だが、今の技術の進捗で言えば課題が山積みだ。従って、従来からの「すみ分け」のイメージは現時点では変わっていない。

図2◎将来の自動車の「すみ分け」に関するイメージ(未来予想図)
[画像のクリックで拡大表示]
図2◎将来の自動車の「すみ分け」に関するイメージ(未来予想図)