製造業のみならず、国内外を揺るがした神戸製鋼所の品質データ偽装問題。その背後にはどのような問題が潜んでおり、今後どのように解決していけばいいのか。調達・購買の専門家である未来調達研究所取締役の坂口孝則氏に解説してもらった。

 以前、私は自動車メーカーの研究所で働いていた。取引先の工場を訪問すると意外に整理されているので、「なかなか5Sがしっかりしていますね」と話すと、「お越しになられるというので、みんなで掃除しました」という。しかも、悪びれるどころか、自慢げですらある。そんなことが1度や2度ならず、何度も見られた。

 他にも、こんなやり取りがあった。

「作業標準書の位置が悪いんじゃないですか?」
取引先「普段はここに置いていないんです。監査があるから、ここに置きました」
「作業標準書は日本語版と英語版だけですが、あの外国人作業者は読めるんですか?」
取引先「いや、本当は使ってないんです…。班長がやって見せますから」

 恐らく、現場の調達・購買担当者は、毎日のようにこういったやり取りを繰り返しているに違いない。私はずっと不思議だった。監査や視察をすれば、その時点での様子は分かる。しかし、それがずっと守り続けられているかどうかは分からない。書類や帳票類がどれだけ用意されていても、中身がデタラメだったら意味がない。

 この問題に対する調達側の答えは、「とにかく監査するしかない。そして、合格した後は、その会社と従業員を信じるしかない」ということだろう。だが、本当にそれだけしかやれることはないのだろうか。

出荷先は約500社

記者会見に臨んだ神戸製鋼所代表取締役会長兼社長の川崎博也氏(写真:尾関裕士)
記者会見に臨んだ神戸製鋼所代表取締役会長兼社長の川崎博也氏(写真:尾関裕士)

 神戸製鋼所のデータ改ざんが世間を賑わしている。発端はアルミニウム・銅事業の不正だったが、鉄鋼事業でも同様の不正があったことが判明した。これ以上の広がりがあるか、執筆時点(2017年10月14日)では分からない。ただ、新たに判明したのは自動車用線材で、そのインパクトは大きい(関連記事1関連記事2関連記事3関連記事4)。

 アルミニウム合金部材では、自動車メーカーや航空機メーカーなどが顧客だった。例えば、JR各社は新幹線車両に神戸製鋼の部材を使っていた。出荷先は、当初の発表では約200社ということだったが、その後の発表で約500社にまで拡大している。国内企業のみならず、米General Motors社など海外企業にも出荷していた。

 神戸製鋼は不名誉にも、以前に工場のばい煙排出データを捏造したこともあった。さらに、同時期に日産自動車の無資格者による完成車検査問題も発覚したことから、世間では「ものづくり大国・日本は凋落してしまったのか」といった論調が目立った。

 ある番組のコメンテーターは、「上に逆らえない雰囲気が悪い」と断罪していた。しかし、「常に上に逆らえる風土」などあるはずもない。本来、上の指示が正しければ、逆らえなくても問題はない。さらに、不正できない仕組みがあればもっと良い。そこで、ここからは、この問題について調達・購買の現場視点から考えていく。