カシオ計算機執行役員で生産資材統轄部長の矢澤篤志氏は、同社が進める生産体制再構築の一環として、楽器(キーボード)の生産をEMS(Electronics Manufacturing Service)から自社へ半年という短期間で移行したことなどを明らかにした。楽器に先立って、プロジェクターの生産を自社に移管した際に「基本的な工程設計の在り方を標準化して、それを楽器に適用した」(同氏)。仮想的に生産ラインを構築し、実ライン構築前にカイゼン活動を実施するためのITシステムも利用した。

カシオ計算機執行役員・生産資材統轄部長の矢澤篤志氏
カシオ計算機執行役員・生産資材統轄部長の矢澤篤志氏
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 同社は2000年代に、製品ごとの収支を明確化するとともに利益を確保する目的で、さまざまな製品について生産の海外展開とEMS、ODM(Original Design Manufacturing)への生産委託を進めてきた。しかし、2010年ごろからより多品種で小ロットでの生産が必要になり、EMSでの品質維持に課題が生じるようになったという。そこで2014年ごろから再び社内での生産に取り組むとともに、生産品目にまたがった生産技術を山形工場に集約して、マザー工場としての機能を充実させつつある。

 既に「3年ほど前まで100%外部委託だったプロジェクターは、山形工場と中国国内の工場に生産を戻した。デジタルカメラもほぼ100%委託していたが、主力機種は山形工場に移管。楽器も、ほぼ100%委託の状態だったが中国の工場に戻す取り組みを進め、2017年7月に完了した。キーボード全製品約30機種を全て自社工場に戻した」(矢澤氏)。もともと自社生産の製品についても、例えば関数電卓の全自動化生産ラインをタイ国内の工場に構築するといった改革に取り組んでいる。

 楽器の取り組みと同時期に導入したのが、生産ラインを3Dでシミュレーションできるツール「VPS GP4」(富士通)。「製品設計はすでに3D化しているため、設計データを利用して生産ラインの検討も進められるようにして、期間短縮を図った」(矢澤氏)。GP4では、作業者の歩行や振り向き動作といった単位のシミュレーションが可能で、例えば部品の置き場所を変えたことによる所要時間の短縮効果なども、実ラインを構築する前に見当をつけられる。