「アルマ」が革命的な画像をとらえたという知らせが日本に最初に伝えられたのは、2014年10月22日だった。この日の日本列島は雨模様で日本では見えなかったようだが、オリオン座の流星群が極大になり見事な宇宙の乱舞が演じられていた。

 井口さんによれば、合同アルマ観測所のピエール・コックス所長(当時)から、各国の「アルマ」の評議会メンバー、およびマネージメントメンバー宛に、画像とともに淡々とした調子でこういう報せが配信されたのだ。

 このおうし座「HL星」の高解像度画像は、「アルマ」の達成度を示すもので、これにより「アルマ」が、これまで誰も見たことのない宇宙を、そしてこれから新しくきり開かれる世界観を探求するための、完璧な新しい観測手法であることを実証できました。

 この「アルマ」における最も重要なマイルストーンに貢献してきた多くの関係者に感謝しています。

 井口さんが受信したメールの最後には、「現在、報道発表の準備中なので、それまでは情報がもれないように努めて欲しい」との断りも記してあった。

 井口さんは、あの画像を見た時の衝撃をこう話した。

 「あの画像は、私たちが見たいと思って長年実現に取り組んできた『アルマ』が、その見たかった画像を初めて見せてくれたことを意味していました。
 しかも、その絵は想像以上に凄かった。
 想像していたのはぼんやりした中に溝が1つくらい見えるかなというものだったんですが、溝が7つも8つも見えた。ということは、地球も含めた太陽系の惑星は、いずれも同時に作られたのではと思わせました。
 これまでは『各惑星が同時に作られたかどうか』は議論がわかれるところでしたが、まさに論より証拠。これからは、『アルマ』が見せてくれたこの事実をもとに論の方を考えてもらわなくてはいけないでしょう。
 惑星系誕生は、どちらかといえば論が先だったんですが、『アルマ』はそれを逆転してしまったんです」

 電波天文学者であり「アルマ」の広報担当である平松正顕さん(国立天文台助教、チリ観測所・教育広報主任)は、その画像を初めて見たときのことを今回、こう語ってくれた。

 「井口さんがノートPCを持って私のオフィスに入ってきました。『こんなのが撮れた!』という言葉とともに見せられたのが、ディスプレイに写し出されたおうし座『HL星』でした。
 当時は広報用の加工もしておらず公開している画像よりも少し画質が落ちるものでしたが、『マジですか!』と言ってしまったことを覚えています。
 私の専門は星形成で、電波望遠鏡特有のぼんやりした画像に見慣れていたので、おうし座『HL星』の鮮明さは衝撃でした。アルマで、まさに『こんな写真が撮れるようになったのか』という衝撃です。
 同室の遠方銀河研究が専門の同僚もやってきて、『視力2000で遠方銀河を見られたらどんな画像になるんだろう』と興奮して話をしたことが忘れられません」