STMicroelectronics社のBenedetto Vigna氏(Executive Vice President, Analog and MEMS Group General Manager)
STMicroelectronics社のBenedetto Vigna氏(Executive Vice President, Analog and MEMS Group General Manager)
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 「かつてジャイロセンサー市場でMEMS方式が(機械式の)既存品を置き換えた。これからは自動焦点機構のためのVCM(Voice Coil Motor)をMEMSアクチュエーターが置き換えるだろう」。こう語るのは、スマートフォン向けMEMSセンサー市場で大きな市場シェアを獲得している伊仏合弁のSTMicroelectronics社のExecutive Vice Presidentでアナログ半導体・MEMSデバイス事業を率いるBenedetto Vigna氏である。同氏は、センサーやアクチュエーターの基盤となるMEMSとアナログ半導体の事業戦略を日経テクノロジーオンラインに語った。

 STは、現在、主に4つの応用分野でMEMSアクチュエーターの製品化を進めている。ピエゾアクチュエーターを使った自動焦点機構、Si(シリコン)薄膜によるスピーカー、超音波距離測定機構、小型プロジェクターである。各応用分野に詳しいノルウェーpoLight社、オーストリアUSound社、米Chirp Microsystems社、米MicroVision社とそれぞれ協業している。

 このうちUSound社と共同で進めているスピーカーは、Si薄膜を振動させて音を出す。イヤホンやヘッドホン向けである。既存技術に対して小型化しても高音質にできる点が特徴という。「ヒアラブルデバイス(関連記事「耳の中にコンピューター、ヒアラブルが世界を変える」)に適している」とする。素子を多数並べればオープンな空間での視聴に向けたスピーカーとすることができる。ただし、この用途では既存のスピーカーに対する優位性を発揮できないとして、大型スピーカーを開発する考えはない。

 poLight社と共同で進めているアクチュエーターは、既存のVCMに対してレンズの位置を高速に動かせるのが特徴である。電磁駆動ではないためコイルが不要で可動部を軽量にでき、位置決めの際のリンギングが抑えられることによる。

 同社は、一連の取り組みによってアクチュエーターで既存の機械式デバイスを置き換えていく狙いだ。「4社と共同で進めているプロジェクトのすべてがうまくいくかは分からない。しかし、2つでもうまくいけば(事業的には)十分だ。MEMSで新しいアクチュエーター事業を創出することをMEMS 2.0と我々は呼んでいる」(同氏)。