SiCがクルマや鉄道に広がる

 SiCやGaNは、2014年に続いて着実に用途先が増えつつある。SiCは、「モビリティー」での採用に注目が集まった。中も大きな市場として見込まれるのが、自動車だ。

 SiCパワー素子を採用した自動車製品はないが、採用に向けた動きが活発化している。例えばトヨタ自動車は、2015年2月にSiCパワー素子を搭載した試作車を使って公道試験を愛知県豊田市内で実施した。その結果、既に従来比5%の燃費改善を確認したという。目標は10%である(関連記事)。

図3 カムリのハイブリッド車(HEV)をベースにした試作車
図3 カムリのハイブリッド車(HEV)をベースにした試作車
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 試作車はカムリのハイブリッド車(HEV)をベースにしたもの(図3)。パワーコントロールユニット(PCU)内の昇圧コンバーターとインバーターに、SiCのダイオードとトランジスタを採用した、いわゆる「フルSiC」品である。SiCトランジスタの中でも、より大幅な損失低減を見込めるトレンチ型MOSFETを採用した(関連記事)。

図4 日立製作所と日立オートモティブシステムズが開発したフルSiCの車載向けインバーター
図4 日立製作所と日立オートモティブシステムズが開発したフルSiCの車載向けインバーター
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 この他、自動車向けに関しては、日立製作所と日立オートモティブシステムズがフルSiCの車載向けインバーターを開発(図4)。2015年10月に開催された「第44回東京モーターショー2015」に出展した。日立の従来品と比べ、電力損失を60%削減し、同体積での電力容量を約2倍に拡大したのが特徴だ(関連記事)。

図5 JR東海がSiCパワー素子搭載の新幹線車両用駆動システムを開発
図5 JR東海がSiCパワー素子搭載の新幹線車両用駆動システムを開発
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図6 山手線の新型通勤電車「E235系」
図6 山手線の新型通勤電車「E235系」
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 鉄道分野での採用もさらに広がった。2015年のトピックは、新幹線への採用である(関連記事)。東海旅客鉄道(JR東海)は、SiCパワー素子搭載の新幹線車両用駆動システムを開発したことを2015年6月に明らかにした(図5)。同社によれば、実用化のメドが立ったことで、今後東海道新幹線への導入を検討するという。

 2015年11月から運行が始まった山手線の新型通勤電車「E235系」にも、SiCが採用された(図6)(関連記事)。ただし、車両制御システムに不具合が生じて、現在は運転を取りやめている。