「医工連携」――。この分野に関して、2016年に特に目立っていたのは、自治体が主体となった動きだ。都道府県や市町村が、自らの地域を“医療クラスター”とすべく、積極的に医工連携を促進していた。

 各自治体が進めたのは、地域の企業が異業種から医療機器産業へ参入する際に、医療現場のニーズの洗い出しや医療現場とものづくり企業の仲介支援、あるいは他地域から企業を集積する取り組み。地域企業の得意分野や地域の医療機関の特色を生かし、自治体ごとに工夫が見られた。

 例えば、東京都は2016年11月に「東京都医工連携イノベーションセンター」を東京 日本橋に開所(関連記事1)。2015年に都が立ち上げた東京都医工連携HUB機構などが入居し、臨床機関とものづくり企業の連携による医療機器の開発を支援する。

 HUB機構は、国立国際医療研究センターの臨床ニーズ発表会も開催(関連記事2同3)。国立国際医療研究センターの医療従事者が、感染症対策やリハビリなどの専門領域における現場ニーズや発展途上国の医療現場が抱えるニーズを発信し、ものづくり企業との連携を図った。

 実際に研究会を通じてものづくり企業との連携が進んでいる事例もあるというが、同時に畑違い同士の連携で課題も見えてきた。国立国際医療研究センター病院 リハビリテーション科 診療科長の藤谷順子氏は、「一病院だけで使える製品を要求するのではなく、普及方法などについても一緒に考える必要がある」と医工連携の難しさを指摘した。

 愛知県名古屋市では、「医療介護ものづくり研究会」を設立。病院や介護施設からの要望を受け、企業とのマッチングを行い、製品化を支援していくという(関連記事4同5)。名古屋市は2014年に同研究会の前身となる事業を行い、男性用収尿器やふくらはぎの血行を促進する装置を商品化したという経緯がある。

ファルマバレープロジェクトの新拠点、「静岡県医療健康産業研究開発センター」の模型
ファルマバレープロジェクトの新拠点、「静岡県医療健康産業研究開発センター」の模型
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 静岡県は、静岡がんセンター、ファルマバレーセンターと「ファルマバレープロジェクト」に取り組む。これは、県内の富士山麓地域に医療健康産業のクラスターを集積することを目指したもので、2016年9月に静岡県医療健康産業研究開発センターを開所(関連記事6)。テルモや東海部品など10社以上の企業が入居し、がんセンターとの連携を図っている。

ふくしま医療機器開発支援センターのイメージ図(写真提供・福島県商工労働部産業創出課)
ふくしま医療機器開発支援センターのイメージ図(写真提供・福島県商工労働部産業創出課)
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 約10年前から医療機器分野への新規参入促進を目指した「うつくしま次世代医療産業集積プロジェクト」を進めてきた福島県は、郡山市に「ふくしま医療機器開発支援センター」を開所(関連記事7同8)。2016年12月に入居者の募集を開始した。同センターでは、医療機器の研究開発から評価、事業化までを一体で支援することを目指している。

 これまで自動車部品を請け負っていた企業が多い地域の自治体が、医療機器業界への参入支援を行うケースもある。広島県や岡山県、静岡県浜松市、長野県がそれだ(関連記事9)。この流れから、医療機器産業が景気に左右されない新たな市場の1つと考えられていることがうかがえる。