遠い未来のものだと思っていた第5世代移動通信システム(5G)が、急に目前の技術になった。2016年は、5Gにおいてそんな年となった。

 5Gとは2020年頃の実用化を目標に、移動通信の標準化団体、3GPPが仕様策定を進めている次世代移動通信技術。下り20Gビット/秒超の最大通信速度、エンドツーエンドで1ミリ秒以下の低遅延、99.999%の信頼性、大量のセンサーノード(IoT機器)の接続などを仕様化することを目指している(「ついに5Gの本格議論始まる」参照)。

米国は2018年にも実用化

 ところが、この仕様化を待たず、実用化に踏み切ろうという動きが出てきた。米国である。米国では、AT&T社やVerizon社が、2018年にも“5G”の商用サービスを開始するとみられている。ただ、5Gとはいっても、スタートは暫定版の仕様で始めることになりそうだ。実際、Verizon社は3GPPの仕様完了を待たず、独自に無線仕様を策定している。これをパートナー企業に公開し、この仕様に沿った製品開発を促す形で開始する。周波数は28GHzを使うものとみられる。初期段階では、移動通信ではなく、もっぱら固定回線を使ったブロードバンドサービスの代替となる無線サービスとしての活用を考えているようだ(「米国の5G、日本とは違う」参照)。このほか、韓国とロシアでは2018年に開催される平昌での冬季オリンピックと、2018FIFAワールドカップでそれぞれ、試験サービスが提供される計画である(「SamsungとKT、平昌冬期五輪に向け5Gの準備着々」を参照)。

 これらを受ける形で、半導体ベンダーも動いた。移動通信向けIC最大手の米Qualcomm社は2016年10月、2017年後半にも、5G対応のサンプルチップの出荷を始めると発表した(「ついに5Gモデムチップ登場へ、Qualcommが28GHz帯活用で」を参照)。周波数帯は28GHz。ピーク時下り速度最高5Gビット/秒を実現するという。

標準化活動は2020年に向け順調

 一方、3GPPでの5Gの仕様策定は、現在順調に進んでいるようだ。まずは、ニーズの見込まれる超高速無線通信を2018年に仕様化し、その後、超低遅延や大量IoT機器接続などの機能を2020年に仕様化する模様である(「5Gの標準化まずはブロードバンドから」参照)。第1弾の仕様化が2018年に終わるといっても、実装、テストには2年ほど時間がかかるので、この最終仕様に沿った形での商用化は予定通り2020年ごろとなりそうだ。

 5G商用化にあたっては、LTE(4G)系の技術は排除するのではなく、積極的に活用する。初期段階では広いカバーエリアを持つLTEと、スポット的に高速化できる5G技術の組み合わせで導入されることになりそうだ。遅れて仕様化される大量IoT機器接続については、NB-IoTなどのLTEベースの技術でまずは展開し、5GでのIoT機器向け仕様が策定された後、徐々に5G技術に移行することになるとみられる(「3GPP、NB-IoT標準化を完了」参照)。