有力ベンチャーが相次ぎ参入

国立がん研究センターなどによる発表会の様子
国立がん研究センターなどによる発表会の様子
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 Watsonの例が示すように、AIの活用に向けた動きがとりわけ活発な領域が、がん医療だ。国立がん研究センターは2016年11月、「統合的がん医療システム(メディカルAI)」を開発することを目指したプロジェクトを始動させた(関連記事10)。

 がん患者の臨床情報や、ゲノム/エピゲノム/血液などの網羅的生体分子情報(マルチオミックスデータ)、さらには疫学データや文献情報までをAIを活用して統合的に解析。がんの複雑なメカニズムを明らかにし、診断や治療、創薬にその知見を応用することで、患者個々人に最適化された医療(Precision Medicine)を実現することを目指す。

 このプロジェクトに、人工知能技術を提供する企業として参加するのがPreferred Networks(PFN)。深層学習(ディープラーニング)技術に強みを持つ、AI分野の有力ベンチャーだ(関連記事11)。

 2016年はこのように、AIベンチャーががん医療分野に参入する動きが相次いだ年でもあった。がん研究会は2016年10月上旬、AIを用いた医療データ解析ソリューションを手掛けるFRONTEOヘルスケアと「がん個別化医療AIシステム」の共同研究に関する協議を開始すると発表(関連記事12同13)。メニーコアプロセッサーやスーパーコンピューター分野の気鋭の起業家として知られ、PEZY Computing代表取締役社長などを務める齊藤元章氏は、がん医療の変革に挑む新会社「Infinite Curation」を立ち上げた(関連記事14)。

 AIの医療応用をめぐる動きは今後、医療関係者にどのような影響を及ぼすのか。医師はAIによって次々と“仕事を奪われて”しまうのか。名古屋大学医学部附属病院 先端医療・臨床研究支援センター 教授の水野正明氏は2016年11月開催の「第36回医療情報学連合大会(第17回日本医療情報学会学術大会)」で、こんな発言をしている。「“本当の医者”とは何か。“本当の医療”とは何か。AIの登場はその真価を問うことになる」(関連記事15)。