9月20日に米国東南部を襲ったハリケーン「マリア」の影響で、プエルトリコでは多くの地域で3カ月以上も停電が続いている。もともと系統が脆弱だったせいもあるが、復旧には時間がかかりそうだ。自家発電装置を持っている家庭は良いが、そうでない住宅ではロウソクでの生活が続く。

 田淵電機アメリカや米テスラは、蓄電装置を緊急出荷した。太陽光発電と蓄電池をセットで設置することで、部分的とはいえ、「電気のある生活」を取り戻すことに貢献している。「ある家庭に1日がかりの作業で1号機を設置したとき、50日ぶりの電気に歓声が上がった。近所から見学者が多数押し寄せてきた」と田淵電機アメリカの藤井社長は言う。

プエルトリコに設置した田淵電機アメリカの蓄電装置
プエルトリコに設置した田淵電機アメリカの蓄電装置
昼間の発電で夜間の電力需要を賄う (出所:田淵電機アメリカ)

 田淵電機の蓄電装置は、定格容量が9.48kWhと18.96kWhの2機種。5kW程度の太陽光発電でフル充電可能であり、夜間の生活で必要最低限の電気を賄える。田淵電機は、米国で家庭向けの蓄電装置を展開するほぼ唯一の日本メーカーであるが、制度面の追い風を受けて業績は好調という。

 田淵電機以外にも、テスラや韓国LG化学、独ダイムラー子会社のメルセデス・ベンツエナジー、独ゾンネン、韓国サムスンSDIなどが米国で家庭向け蓄電池を出荷している。

 経済的メリットやビジネスモデルに関する議論は様々あるが、蓄電装置の価格低下と、蓄電装置の普及を後押しする電気料金体系が広まることで、近く米国では急速に家庭用蓄電池が普及すると筆者は予測している。

 蓄電池は、再生可能エネルギーの活用や、分散電源の広がりによる電力の地産地消の要だ。しかも、家庭への蓄電池導入は、需要家と電力会社の双方に大きなメリットがある。

 前回は、大型(電力会社向け)と大口需要家向けの蓄電について述べた(「カリフォルニアで蓄電池ビジネスの行方が見えた」)。今回は「住宅向け蓄電池」の米国での状況を考察してみたい。

普及の鍵握る「ネットメータリング制度」

 需要家側で蓄電池の導入が進む条件は、蓄電装置を入れて「グリッドパリティ」に到達するかどうか。つまり、蓄電池導入後に需要家が支払う総コストが、系統からの電気料金と同等以下になることが欠かせない。

 現時点で蓄電池はの価格はまだ高く、ただ導入するだけではコスト高になってしまう。このため、蓄電装置の価格低下や補助金が欠かせない。そして、もう1つ重要なのが、「ネットメータリング制度」(NEM、Net Energy Metering)の廃止や変更である。

 蓄電池とNEMの関係を考えるためにも、まずはNEMの仕組みを押さえたい。

 NEMは、太陽光発電の余剰電力を小売価格(電気料金)と同額で電力会社に売電できる仕組みだ。NEMがあれば、ルーフトップ(屋根の上)に太陽光発電を設置すれば、上昇し続ける電気料金が確実に安くなる。(なお、NEMは住宅向けに限らず、法人需要家にも適用される。ルールの詳細は州によって異なる。)

 2017年時点で、全米50州のうち、90%以上の州がNEMを制度化している。米国の住民にとって明らかなメリットがあるからこそ、太陽光発電は急速な普及を遂げている。米国では36の州でグリッドパリティに達したと言われる。これはNEMによる恩恵あってのものだ。