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 5Gは物流や警備、エンターテインメント、建設や製造業などの分野で威力を発揮する。

 「5Gを使って基地局経由の車車間通信の遅延を10ミリ秒に抑えられれば、車間距離が5mほどの短さでも安全に隊列走行できる」。ソフトバンクの吉野仁 先端技術開発室 担当部長は力説する。同社は総務省の2017年度「5G総合実証試験」に自動運転分野で参画。2018年1~3月にも茨城県つくば市内でトラックと5Gの基地局を使った隊列走行を実証実験する。

 隊列走行とは複数の車両が車間距離を詰めながら縦に並んで走ることを指す。自動運転による隊列走行では先頭車の運転手だけが運転し、後続車両は自動運転で先頭車を追随する。先頭車の加減速やハンドル操作などの制御情報を後続車へ迅速に伝える。データ伝送に5Gを活用し、無線区間のみで1ミリ秒、伝送前後のデータ処理時間を含めても10ミリ秒での伝送を目指す。公道を走る際は、先頭車のドライバーが安全確認できるよう、後続車の側方・後方に付けたカメラの映像を先頭車に送る必要もある。

 隊列走行の車間距離を縮められると、後続車の空気抵抗が減り燃費が改善する効果がある。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のシミュレーションによれば、3台のトラックが時速80キロメートルで隊列走行する場合、車間距離4メートルで15%、2メートルで25%ほど燃費が改善するという。輸送業界の熟練ドライバー不足と収益性を改善し、環境・エネルギー対策にもつながる。5Gは「トラック輸送革命」を起こすと言えるだろう。

図 5Gを使ったトラックの隊列走行実験の概要
時速80キロメートルで車間距離5メートルも視野に
図 5Gを使ったトラックの隊列走行実験の概要
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 こうした取り組みは海外でも進む。ドイツの自動車メーカーのアウディ、BMW、ダイムラーと米インテル、米クアルコムなどは2016年10月、5Gの自動車分野への応用について技術開発を進める5GAA(5G Automotive Association)を発足させた。一方で自動車業界は「DSRC」と呼ぶ専用の無線規格も推進している。5Gが自動車業界の標準となるにはカバーエリアや通信料などクリアすべき課題も多い。