米Amazon.com社は2017年11月23日から27日までの米国最大のショッピングシーズン(「感謝祭」から「ブラックフライデー」、そして「サイバーマンデー」まで)の週末の間、同社のサイトで最も売れた商品は音声対話型人工知能(AI)「Alexa(アレクサ)」搭載のAmazon製デバイス、つまりAIスピーカー(スマートスピーカー)「Amazon Echo」関連製品だったと発表した。

Amazon.com社の「Echo」シリーズの新製品「Echo Plus」(写真:Amazon.com社)
Amazon.com社の「Echo」シリーズの新製品「Echo Plus」(写真:Amazon.com社)
[画像のクリックで拡大表示]

 同社によると、この期間だけで「何百万台」ものデバイスが売れ、Amazon製品内だけでなく、他社のどの製品カテゴリーを含めても最高の売上台数をマークしたという。

 この売上の勢いには価格攻勢も手伝った。Amazon社はこの期間中、小型のEchoである「Echo Dot」の価格を49.99ドルから29.99ドルへ、通常のEchoを99.99ドルから79.99ドルへ、新製品の「Echo Plus」を149.99ドルから129.99ドルへ、持ち運びができる「Amazon Tap」を129.99ドルから79.99ドルへと、いずれも大幅に値下げしていたのだ。

 Amazon社は、「これで世界中で何千万人もの人々が、Alexaを利用してホリデーシーズンの準備にかかることでしょう」と続けている。今年になってEchoの製品シリーズは、カメラやスクリーン付きの「Echo Look」、「Echo Show」、「Echo Spot」などいきなりラインアップが増えたのだが、Echo関連製品はこれまで約2000万台売れていると推計されている(音声技術関連メディアの米Voicebotによる)。特に売上を伸ばしているのは、小型の「Echo Dot」だ。

 2017年6月に発表されたNPR(公共ラジオ)と米エディソン・リサーチ社の調査では、米国の家庭の7%がすでにAIスピーカーを所有している。米コムスコア社によると、今年10月時点でWi-Fiを導入した家庭ではその割合は11%だという。この数字は数カ月前の6月には8.1%だったので、着々と増えていることが分かる。米ガートナー社は、2020年には75%の家庭がAIスピーカーを持つようになると予測する。

買い足したい人が45%

 では、米国のユーザーはAIスピーカーを実際どのように利用しているのだろうか。筆者の周囲を聞きまわってみると、AIスピーカーを所有している人は多いが、1日中話しかけているようなヘビーユーザーはほとんどいなかった。ヘビーユーザーではないが、例えば以下のような使い方が浮かび上がってきた。

 Hさんは4人家族。ご主人と二人の子供の部屋に、合計3台のAmazon Echoを設置している。1台はすでにあったが、Hさんの夫が、子供達にも新しいテクノロジーに親しんで欲しいと、今年のプライムセールの際に買い与えた。

 Hさん一家のように、AIスピーカーを複数台所有する家庭は少なくない。NPRとエディソン・リサーチ社の調査では、ユーザー家庭のうち、1台のみ所有は58%、2台が24%、3台以上は18%となっている。すでに持っていても、もう1台買い足そうと考える人は45%にも上っている。慣れれば、家の中の異なった部屋でも使いたいと思うようになるのだろう。

 さて、Hさんの家庭での使い方は、目覚まし、音楽を聞く、株価を確かめる、が定番。特に16歳の長女は、学校から帰宅するなりAlexaに話しかけて、お気に入りの音楽を聞き、そのまま夜までかけっぱなしだ。また、宿題で分からないことがあると、やはりAlexaで辞書やウィキペディアの説明を聞く。

 ユニークなのは、Alexaで電話をかける使い方だ。ティーンエージャーらしく部屋にこもってしまう子供たちを呼び出すのに利用する。「Alexa、◯◯に電話して」と伝えると、子供たちの携帯電話が鳴る仕組みだ。

65%が「元の生活に戻りたくない」

米国最大のショッピングシーズンに、家電量販店に積まれた「Google Home 」関連製品(写真:瀧口範子)
米国最大のショッピングシーズンに、家電量販店に積まれた「Google Home 」関連製品(写真:瀧口範子)
[画像のクリックで拡大表示]
 夫婦二人でアパート暮らしのYさんも、キッチンに米Google社の「Google Home」、バスルームに「Google Home Mini」を置いている。いずれも、スマートフォン(スマホ)契約の際にもらった。

 Yさんは、1日に15〜20回はGoogle Homeに話しかけている。キッチンではタイマーとして利用したり、料理の食材を確かめたりする。バスルームでは、出かける前に時間や天気を確認したり、バスタブでニュースや音楽を聴いたりする。訪ねてきた友人夫妻もそんな様子を見て、すぐに購入したという。もう慣れてしまったので、「ない」と不便を感じるだろうと言う。

 もう一人、70代のFさんはパートナーと二人暮らし。テクノロジー業界に長く身を置いてきたこともあり、新しい物好きだ。Amazon Echoは初期の予約販売時から待って手に入れた。その後、Echo Dotも購入した。Echoはキッチンに、Echo Dotは寝室に置いている。

 彼女はEcho Dotにしょっちゅう話しかけているという。IoT電灯の「Philips Hue」が4カ所に取り付けられているので、それを音声で操作したり、テレビのオン・オフ、音楽の再生、ニュース、天気予報の情報取得などに使う。一部の買い物もEcho やEcho Dotでする。ドッグフード、洗剤など、どのブランドのどの商品かが決まっているものだ。たまに「ジョークを言ってちょうだい」と告げたりもする。

 実は、Google Homeも6カ月前に買ったが、ほとんど使っていない。Amazon Echoに慣れてしまったし、それで十分間に合っているからだ。いずれにしても、こうしたAIスピーカーがないと、かなりの不便を感じるだろうと言う。

 上記のNPRとエディソン・リサーチ社の調査でも、42%のユーザーがAIスピーカーは「生活の中で重要な位置を占めている」と言い、65%は「それがない生活には戻りたくない」としている。知らず知らずのうちに、AIスピーカーとの共同生活に親しんでしまうのだろう。