地域名を社名に冠し、地域性をアピールする地域新電力は60社にのぼる。だが、その多くは苦しい経営を強いられている。地域のエネルギー事業者というコンセプトに間違いはないが、地域貢献の裏付けがしっかりしていなければ、地元の支持は得られない。

 「地域新電力」という言葉を一度は耳にした読者も少なくないだろう。

 狭義では「自治体から出資を受けている新電力」を指すこともあるが、自治体が出資していなくても「社名に地域名を冠して地元にアピールする新電力」を広く含めることもある。現在、両者を合わせた地域新電力は60社あり、これは登録新電力全体の15%を超えている(2018年1月時点)。今後も増えていくと見られる。

 地域新電力は、「自治体から出資を受けられれば住民に信頼されやすい」、あるいは「電気の地産地消など地元ならではのプランをうたうことで、親近感と支持を得やすい」といった発想や思惑で設立されるケースが多いようだ。

 だが、その地域新電力が今、苦しんでいる。利益を出すどころか、地域住民の認知も低く、想定ほど需要家数が伸びていない事業者が多い。地元の再生可能エネルギー発電所の協力も思うように得られず、日本卸電力取引所(JEPX)からの電力調達に頼ることを余儀なくされている。最近の西日本のJEPX価格の高騰で、大きな赤字を出している事業者も少なくないのではないかと案じられる。

 下の円グラフは、2017年9月時点の新電力の販売量シェアを、ガス会社、石油会社、商社など系列別に示したものだ。地域新電力は事業者数で新電力の15%を占めながら、販売シェアは1%程度しかない。

地域新電力の販売量はわずか1.4%
地域新電力の販売量はわずか1.4%
新電力の系列別電力販売量シェア(出所:著者作成)
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モデルはドイツのシュタットベルケ

 「再エネの地産地消」を標榜し、自治体から出資を受け、地域と密接な関係を築き、地域を囲い込んで利益を上げる――。シンプルなモデルながら、地元住民との関係がディープになればなるほど、大手電力も需要家を奪還しにくくなる。攻防両面で非常に優れた戦略と言える。なのに、なぜ、地域新電力は低迷しているのだろうか。

 地域新電力のお手本としてよく引き合いに出されるのが、ドイツの「シュタットベルケ」である。

 自治体などが運営する地域の総合エネルギー事業者であるシュタットベルケは、ドイツ国内に1400社ほどあり、合計の売り上げは1000億円を超える。地元の再エネを利用した電気のほか、ガスや熱も地域に供給しており、地域の交通サービスを担う例もある。

 また、コンサルタントを家庭に派遣してエネルギー消費診断をしたり、住宅の断熱評価などの地域密着サービスも提供しており、売り上げの一部を地元の教育支援や職業訓練給付に充てているケースも多い。シュタットベルケは地域住民から圧倒的な支持を集め、大手電力もうかつには手を出せない“聖域”となっている。