新国立競技場の規模は小さいほど良い

――技術協力した建設会社はどのような役割を果たすべきだったのか。

槇:デザインビルド(DB)方式ならば設計と施工を一括でやることで、白紙の状態から設計者と施工者が一緒になって作業を進めていく。新国立の場合は外部にいる施工者にコストや技術的な問題を分析させようとした。新国立は「ECI(アーリー・コントラクター・インボルブメント)方式」を採用して、施工予定者は設計段階から関与することが条件だった。

 施工予定者は最終的に建物の出来不出来、または請負金額に対して責任を負うから真剣に取り組んだはずだ。屋根の開閉装置など特殊な機能が多かったので、設計者だけではできなかったのだろう。そこでも施工予定者が役割を果たせるよう、4社JVはきちんと仲介の役割を果たしていたのかを検証する必要があるはずだ。

 ザハ・ハディド・アーキテクツ、施工予定者、4社JVの3者の関係をもっとはっきりさせることが重要だったはずだ。ザハ・ハディド氏のデザインだけが問題視されてきたが、設計を引き受けた4社JVの責任も大きい。

――50年、100年と残るスタジアムをつくるためにどのような設計が必要になるか。

槇:8月半ばに遠藤利明五輪担当相に「新国立は小さいほど良い」とお話しした。常設席が8万人の競技場は安全面からも課題が多い。例えば、新国立がテロの標的になった場合、8万人を誘導して逃がすだけの空間が周囲にはない。五輪期間中は道路を封鎖するなどして対応できるが、イベントのたびに交通規制は敷けない。恒久施設と考えれば、常設席は5万席、仮設席を3万席として2020年東京五輪に備えるほうがいいだろう。

6月1日に槇グループが提案した新国立競技場のデザイン案。整備費を大幅に低減できるデザインへの変更を訴えてきた(資料:槇総合計画事務所)
6月1日に槇グループが提案した新国立競技場のデザイン案。整備費を大幅に低減できるデザインへの変更を訴えてきた(資料:槇総合計画事務所)
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(資料:槇総合計画事務所)
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 日本の将来を考えて、身の丈に合った競技場をつくるべきだと思う。これからは人口が減少していく。維持管理に割けるお金も少なくなるだろう。景観や安全の観点からも学んでほしい。遠藤五輪担当相はアスリートの意見を聞いているが、それは政治家の立場としての話。白紙撤回前の計画でも有識者会議の意見をまとめて「つくっちゃおう」と動いた結果が、現在の状況を招いた。文部科学省も当事者としての機能を果たさなかった。

 もっと都市計画の専門家の意見を聞いた、将来を見据えた競技場と周辺の整備を行うべきだろう。しかし、都市計画専門家から何の意見も聞こえてこない。それでも「サッカーワールドカップ誘致のために8万人常設席の競技場が必要」と考えるなら、私たちは数十億円を使って過去から何も学ばなかったということになる。

 これからの関心事はどのようなプログラムで設計・施工者を選定するかだ。そして東京五輪の後には競技場をどのように使うのか。陸上競技用にするならばサブトラックを恒久的に持たなければならない。それならば、サッカーかラグビー用となるが、ラグビーは集客力がない。それならばサッカー専用競技場になるということだろうか。

 見直し案の技術提案書については、点数制にしたことで大変縛りが多く、大部分は当たり障りのない平凡なプロジェクトになると思う。従ってデザインの見せ場としては、観客席の屋根に工夫を凝らすことくらいしかないだろう。