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スポーツIT革命の衝撃

「レスターの奇跡」陰の立役者に学ぶ“賢い技術投資”

「スポーツアナリティクスジャパン2017」から(2)

2018/01/09 05:00

浅野智恵美

 世界最高峰レベルのサッカーリーグであるイングランド・プレミアリーグ。2015~2016年シーズン、岡崎慎司選手が所属するレスター・シティFCが周囲の予想を覆して優勝するという快進撃を起こしたことは記憶に新しい。多くの強豪チームを打ち破って優勝へと導いたその裏側には、パフォーマンスアナリストによるデータとテクノロジーの活用があった。

 「スポーツアナリティクスジャパン2017(以下、SAJ2017)」(主催:一般社団法人日本スポーツアナリスト協会、2017年12月2日)では、「英プレミアリーグを制したアナリティクス~レスター・シティFCのパフォーマンスアナリストの取り組み~」と題するセッションが開かれた。

 ゲストに招かれたのは、レスター・シティFCでパフォーマンスアナリストおよびスポーツサイエンティストのヘッドを務めるPaul Balsom氏。コーディネーターはオーストラリアCATAPULT社 ビジネス開発マネージャーの斎藤兼氏である。

レスター・シティFCでパフォーマンスアナリストおよびスポーツサイエンティストのヘッドを務めるPaul Balsom氏
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選手は“脳”でプレーしている

 スポーツサイエンスとサッカーの関わりについて、Paul Balsom氏はこう話す。

 「スポーツサイエンティストとして、よく“道具箱”の話をしますが、この仕事を始めた当初はほとんど物が入っていない状況でした。しかし、現在であればGPS(全地球測位システム)などさまざまなツールが入っています。それらのツールは選手のパフォーマンスを高めること、怪我のリスクを下げることなどに活用しています」

「GPSのトラッキングシステムを使えば各選手の全ステップなどを計測したり、心拍計で試合中・トレーニング中の鼓動をトラックできます。これを換算すると、1週間に6000万ほどのデータポイントを取得できます。これは私にとってビッグデータですが、もちろんデータが試合に勝たせてくれるものではありません。そのデータを使って“何をするか”が重要です」(同)

トラッキングテクノロジーと心拍数の計測によって、選手への外的負荷と内的負荷をモニタリグする(図:レスター・シティFC)
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 選手は1試合で1000回以上、何らかの判断をしている上に、社会的なストレスにもさらされているという。メンタル面での疲労は判断を鈍らせる。

 Balsom氏はこう言う。「最近よく言われているのは、選手は足よりも“脳”でプレーしているということ。細かな指示を受け、数メートル・数センチメートル単位での判断が求められます。試合中、選手はさほど多くは走りません。時には定位置にいて、何もしないことがベストな選択になるかもしれない。きちんと組織が成り立っていれば、相手よりも少ない走行距離でも勝つことができます。選手たちの判断力を向上させるための方法についても、注目しないといけなくなっています」

40%以上の怪我は回避可能

 スポーツ選手にとって怪我は、選手生命をも左右する。トラッキングと負荷管理によって、怪我のリスクを確実に減らせるという。

 「これは今回のキーメッセージですが、日本ではよく“お金がないから投資ができない”“システムを導入できない”というような話が出ます。しかし、例えば米国のMLBであれば、年間およそ7億ドルも怪我をした選手に使われている。そして、この怪我の約40%は回避できると言われています」(Balsom氏)

 同様に、MLB以外の米4大スポーツでは、NFLで年間およそ4.5億ドル、NBAで3.5億ドル、そしてプレミアリーグでは3億ドルが怪我をした選手に使われている。

 「レスターが優勝したシーズンには、リーグ全体で最も怪我数が少なかった。最近では怪我が少ないと勝利数が多いという相関関係も見えてきています」(同氏)

怪我をした選手にかかる金額は莫大だ。MLB、NFL、NBA、プレミアリーグ(EPL)のデータ。怪我を未然に防ぐことが重要となる(図:レスター・シティFC)
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 選手への負荷は、高すぎても低すぎても怪我につながる。レスター・シティでのトラッキングテクノロジーの活用について、Balsom氏はこう話す。

 「スタッフとして一番重要なことは、試合やトレーニングで負荷をコントロールすることです。負荷を測定し、モニタリグしてコントロールする。プレイヤートラッキングのツールによってそれが可能になります」(同)

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