このアルゴリズムを用いると、選手の疲労を可視化することも可能だという。

 「試合を伝える記事の中では“試合が進むに連れて、パッキャオ選手は疲労が蓄積し、受け身になっているように見られた”と書かれたものもありました。そこで、本当にその通りだったのかを見てみました。方法としては先ほどと同様、選手の体表温を計測します。色が均一であれば体温を維持している、つまり疲労していないことを表しています。体温を維持できなければ、色は不均一です。写真を見ればお分かりになるように、パッキャオ選手は試合を通して色が均一である一方、ブラッドリー選手は頭部と肩の部分しか温度を保てていませんでした。これらのデータによると、パッキャオ選手は疲労を感じず、ブラッドリー選手に対してダメージを与えていたことが分かりました」(同氏)

選手の疲労を可視化したもの。赤い色が均一であるほど血流を制御した状態、つまり疲労を感じていない状態である。写真右に掲載されている12ラウンド目の両者の色を比較すると、パッキャオ選手は疲労を感じていないことが明らか(図:BAMTECH Media社)
選手の疲労を可視化したもの。赤い色が均一であるほど血流を制御した状態、つまり疲労を感じていない状態である。写真右に掲載されている12ラウンド目の両者の色を比較すると、パッキャオ選手は疲労を感じていないことが明らか(図:BAMTECH Media社)
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 この試合後、WBOは5名のレフェリーがビデオ検証によって試合を精査することを発表。結果、5名ともにパッキャオ選手が優勢だったと認めた。SAJ2017でインゼリーロ氏が紹介した取り組みは、当時はプロトタイプ段階であったため、試合後のビデオ検証には用いられなかった。しかし今後、より精度を高めていくことで、近い将来にはボクシングの判定にこの技術が用いられる可能性がある。実際、インゼリーロ氏も「より客観的な情報を出すことで、判定の確度を高めることができるだろう」と胸を張った。

 ダメージの可視化は他の格闘技にも転用されていくことになるであろうし、疲労の可視化は、格闘技に限らず多くの競技で役立てることができる。今後BAMTECH Media社が持つ技術とノウハウは、いくつものスポーツに革命的な変化をもたらすことになっていくだろう。