「NHKやるじゃないか」「ついに時代が進んだ」。2015年10月中旬から下旬にかけて、NHK BSが放送したクライマックスシリーズと日本シリーズの中継を見た野球ファンは歓喜の声を上げた。ピッチャーが投げた球の軌跡を正確に捉え、瞬時にデータ化、3Dグラフィックスで表示する。そんな処理を実現するシステム「PITCHf/x」が、国内のプロ野球で初めて放送に使われたのだ。
「ベテランのファンは配球やコースを考えながら見ることができる。初心者にも球の動きが分かるので飽きずに楽しめると好評でした」と語るのは、NHK報道局スポーツセンタースポーツ番組部の寺沢誠司チーフ・プロデューサーだ。
一般的に、放送の画面上に新たな要素を加えると「邪魔だ」というクレームが入ることも多いが、PITCHf/xではそんな心配は無用だった。「これは面白い」という前向きな評価や、メジャーリーグに詳しいファンからは「やっと日本でも始めてくれた」という声が寄せられた。球団関係者からの評判も上々だったという。
3つのカメラで分析
PITCHf/xは米スポーツビジョンが開発した投球の解析システム。球場に設置した三つのカメラがとらえた映像をコンピューター上で解析し、球の初速、終速、回転軸の角度、変化の量といったデータを瞬時に導き出す。
米メジャーリーグでは、2007年から全30球場でPITCHf/xのシステムを設置しており、放送だけでなく、選手を強化するためにデータを活用。審判の技術向上にも影響を与えている。各種のデータはメジャーリーグのWebサイトで公開されており、それらを分析して楽しむ熱心な野球ファンもいる。韓国やドミニカ共和国でも導入が進んでいるという。