鋭い変化球、アウトコースぎりぎりの球筋が3D表示で手に取るように分かる 。2016年シーズン以降はそんなプロ野球中継の新たな楽しみ方が広がり、ファンを盛り上げそうだ。米国メジャーリーグで全球団が採用する投球解析システム「PITCHf/x」が国内でも広がる兆しが見えてきたのだ。端緒となったのは、2015年10月のクライマックスシリーズと日本シリーズ。日本初の試みとしてNHK BSがPITCHf/xを利用した野球中継を放送したのだ。こうした動きに後押しされるように、審判技術の向上を目指す日本野球機構も導入の検討を始めている。
2015年10月16日に開催されたパリーグのクライマックスシリーズ、ファイナルステージ第3戦の様子。画面右側にPITCHf/xによる3Dグラフィックスを表示している。以下、画像提供はNHK BS、データスタジアム
2015年10月16日に開催されたパリーグのクライマックスシリーズ、ファイナルステージ第3戦の様子。画面右側にPITCHf/xによる3Dグラフィックスを表示している。以下、画像提供はNHK BS、データスタジアム
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 「NHKやるじゃないか」「ついに時代が進んだ」。2015年10月中旬から下旬にかけて、NHK BSが放送したクライマックスシリーズと日本シリーズの中継を見た野球ファンは歓喜の声を上げた。ピッチャーが投げた球の軌跡を正確に捉え、瞬時にデータ化、3Dグラフィックスで表示する。そんな処理を実現するシステム「PITCHf/x」が、国内のプロ野球で初めて放送に使われたのだ。

 「ベテランのファンは配球やコースを考えながら見ることができる。初心者にも球の動きが分かるので飽きずに楽しめると好評でした」と語るのは、NHK報道局スポーツセンタースポーツ番組部の寺沢誠司チーフ・プロデューサーだ。

ホームベースの上から見た視点に切り替えできる。アウトコース(またはインコース)いっぱいのきわどい球を機械はどう判別しているのか、という新たな視点が加わることで、野球をより深く楽しめる
ホームベースの上から見た視点に切り替えできる。アウトコース(またはインコース)いっぱいのきわどい球を機械はどう判別しているのか、という新たな視点が加わることで、野球をより深く楽しめる
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 一般的に、放送の画面上に新たな要素を加えると「邪魔だ」というクレームが入ることも多いが、PITCHf/xではそんな心配は無用だった。「これは面白い」という前向きな評価や、メジャーリーグに詳しいファンからは「やっと日本でも始めてくれた」という声が寄せられた。球団関係者からの評判も上々だったという。

3つのカメラで分析

一塁側、三塁側、センター方向と3カ所にカメラを設置し、その映像を分析することで投球の軌道データを作り出す
一塁側、三塁側、センター方向と3カ所にカメラを設置し、その映像を分析することで投球の軌道データを作り出す
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 PITCHf/xは米スポーツビジョンが開発した投球の解析システム。球場に設置した三つのカメラがとらえた映像をコンピューター上で解析し、球の初速、終速、回転軸の角度、変化の量といったデータを瞬時に導き出す。

 米メジャーリーグでは、2007年から全30球場でPITCHf/xのシステムを設置しており、放送だけでなく、選手を強化するためにデータを活用。審判の技術向上にも影響を与えている。各種のデータはメジャーリーグのWebサイトで公開されており、それらを分析して楽しむ熱心な野球ファンもいる。韓国やドミニカ共和国でも導入が進んでいるという。