インテルはイスラエル社買収で技術取得

 実は、類似のシステムは米Intel社やKDDI総合研究所、富士通なども開発している。いずれも基本的な仕組みはキヤノンと同様だが、短時間に映像を制作して試合の放送時にリプレーで紹介したりする点に違いがある。

球場に設置された「FreeD」撮影用のカメラ(写真:Intel社)
球場に設置された「FreeD」撮影用のカメラ(写真:Intel社)
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 Intel社は2016年3月に自由視点映像技術を持つイスラエルのReplay Technologies社を買収。同社が開発した「FreeD」と呼ばれている技術を、米プロアメリカンフットボールNFLの優勝決定戦「スーパーボウル」や、米プロバスケットボールNBAのプレーオフなどに導入したりしている。

 NBAのプレーオフでは、アリーナ内の周囲に設置した28台の4Kカメラで撮影した大容量のデータを、Intel社のプロセッサーを搭載した高性能なサーバーで処理した。選手のダンクシュートなどのハイライトシーンを試合の放送中に360度視点で見せた。

KDDI総研は「リアルタイム」強調

 KDDI総合研究所は2017年10月、撮影した映像をカメラが存在しないアングルも含めてリアルタイムで任意の視点から視聴できる「自由視点VRリアルタイム制作システム」を世界で初めて開発したと発表した。同社が2017年10月に開催された展示会「CEATEC JAPAN 2017」で披露したボルダリングのデモでは、16台のHDカメラを使って、クライミングする選手を撮影。得られた映像からリアルタイムに自由視点VR映像を作成してみせた。ユーザーは手元にあるゲーム用コントローラーで、どの視点のVR映像を表示するかを自由に選べる。

2017年10月に開催された展示会「CEATEC JAPAN 2017」のKDDIブースで披露した「自由視点VRリアルタイム制作システム」のデモ
2017年10月に開催された展示会「CEATEC JAPAN 2017」のKDDIブースで披露した「自由視点VRリアルタイム制作システム」のデモ
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 また、KDDIと北海道日本ハムファイターズ は2017年8月、米4D REPLAY社が開発・販売する自由視点映像システム「4D REPLAY」を活用した実証実験を、札幌ドームで開催されたファイターズ対オリックス・バファローズ戦で実施した。4D REPLAY社は、映像処理時間の短縮や画像品質の向上を実現する技術を保有しており、短い処理時間で映像生成できる点が特徴としている。

 冒頭で紹介したキヤノンは「現在は実証実験段階であり、ビジネス計画については未定」(広報)としており、リアルタイム性よりも映像の品質で勝負するようだ。「自社で培ってきた優れたカメラとレンズ技術を生かせる」(伊達氏)からだ。

 「自由視点映像」は、プレーデータ(スタッツ)の表示などと同様、スポーツ中継の魅力を高める技術として期待が大きい。2019年のラグビーW杯、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに、どのような進化を遂げるか、楽しみだ。