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スポーツIT革命の衝撃

野球に「フライボール革命」 スポーツデータ活用最前線

データスタジアムに聞く(上)

2017/10/04 05:00

内田 泰

 選手やボールの動きを追尾するトラッキングシステムや、GPS(全地球測位システム)などを活用した「スポーツの可視化」が急速に進んでいる。選手の能力改善やチームの戦術構築、チーム編成、スポーツ放送の演出強化・・・。可視化によって集められたビッグデータは、スポーツビジネスにとって“宝の山”である。スポーツデータ活用の最前線と未来を、データスタジアム ベースボール事業部 アナリストの金沢慧氏に聞いた。前後半の2回に分けて紹介する。(聞き手=日経テクノロジーオンライン 内田 泰)

―― プロスポーツの試合のデータ化や活用は米国がかなり先行していましたが、国内でもここ数年で進んでいると聞いています。最新の状況を教えてください。

データスタジアム ベースボール事業部 アナリストの金沢慧氏
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金沢 米国では例えば、米プロ野球のMLBが投球の速度や軌道を追跡するシステム「PITCHf/x」(米Sportvision社)を、2008年には全球場に導入しました。そして、軍事用レーダーを応用して投球の速度や回転数、打球の打ち出し角度や推定飛距離などを算出する「TrackMan(トラックマン)」(デンマークTRACKMAN社)と、専用カメラでグランド全体を撮影して選手の動きを追跡する「TRACAB(トラキャブ)」(米ChyronHego社)を組み合わせて、「STATCAST(スタットキャスト)」というブランド名のシステムを、2015年に全球場に導入しています。

 それに比べると、日本のプロ野球(NPB)はまだMLBに追い付いていないといえます。ただし、トラックマンについては既に過半数の球団の本拠地に導入済みで、来年も導入を予定している球団があります。

「TRACAB(トラキャブ)」の専用カメラ。別方向を向いた3台のカメラが1つのボックスに収められている(写真:データスタジアム)
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 一方、国内のプロサッカーでは、J1で全試合のトラッキングデータをトラキャブで取得しています。ただし、専用カメラはスタジアムに常設されていません。そこでデータスタジアムが機材の設置からデータの取得・加工まで運営を請け負っています。トラキャブの専用カメラは、異なる方向を向いた3台のカメラを内蔵したボックス型のもので、それをピッチを俯瞰(ふかん)するように2カ所に設置して撮影します。

 トラキャブは1秒間25フレームの映像から、「誰がどこにいたか」という座標データを取得します。それを基に各選手の「走行距離」「スプリント回数」「トップスピード」などを算出します。

サッカーでは、トラキャブの専用カメラをスタジアムでピッチを俯瞰する場所に2台設置(図:データスタジアム)
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 Jリーグにはデータの加工部門がないため、データスタジアムがデータの加工までを請け負い、各チームに走行距離、スプリント回数、トップスピードといったデータをレポーティングしたり、それらをメディアに提供しています。

―― データスタジアムでは、担当者が試合の映像を見ながらプレーデータを手作業で収集しています。トラッキングシステムによるデータ収集の自動化は、御社にどのような影響を与えていますか。

金沢 トラキャブによるデータ抽出は自動ですが、基本的には「半自動」と言えます。最初に、「この人がこの選手だよ」というタグ付けをしておけば、試合が始まると自動追尾をします。しかし、接触プレーやセットプレーがあったりするとタグが外れてしまうので、手作業で直す必要があります。

 また、データスタジアムがもともとやっている手作業によるタグ付けが不要になるわけではありません。トラキャブには2つの問題があるからです。1つは、トラキャブのボールのトラッキング精度が低いことです。基本的に人間を追尾するよう設計されているため、高速で移動するボールを正確に追えません。さらに、3次元で追っていないので、ボールが地をはっているのか、空中で動いているのかなどの判別ができません。

トラキャブの分析アプリケーションのイメージ(図:データスタジアム)
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 もう1つは、ボールを追尾したところで、そのプレーが「クリア」「パス」「シュート」なのか、“意味づけ”が自動でできません。それを手作業でやるのです。Jリーグが各チームに提供しているデータよりも詳細なデータが欲しいチームに対しては、有償でこうしたデータを提供しています。

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