現代のスポーツの世界では、さまざまなデータを取得・分析することは観る楽しみ、そして選手のパフォーマンスを向上させるために必要不可欠なものとなっている。中でも最近、多くの競技関係者から注目を集めているのが「ロケーションテクノロジー(位置情報技術)」。この技術を活用して世界を驚かせたのが、2015年にラグビーW杯で優勝候補・南アフリカを破ったラグビー日本代表だ。2016年6月に「Location Buisiness Japan 2016」で、日本ラグビーフットボール協会 技術力向上委員、筑波大学ラグビー部監督の古川拓生氏が語った、ラグビーにおけるロケーションテクノロジーの活用方法、そしてデータとトレーニングを結び付ける重要性の後編を談話形式でお伝えする。
ラックやモール、スクラムなど、多人数の選手たちが密集するラグビーでは、映像だけで十分なデータを取得することが難しい
ラックやモール、スクラムなど、多人数の選手たちが密集するラグビーでは、映像だけで十分なデータを取得することが難しい
[画像のクリックで拡大表示]

GPSは、もはやトレーニングツールの一つに

 ラグビーでは、以前からDLT(Direct Linear Transformation)法という手法でデータを取得していました。映像をコマ送りしながら、選手がどのように動いていったのかを分析する手法です。しかし、数年前からGPS端末を活用するようになり、以前よりも簡単に、かつ短時間で選手の移動距離などのデータを取得できるようになりました*1

*1 位置情報を取得するGPS機能や加速度センサーを内蔵した小型端末を選手の背中の上部に装着して計測する。
古川拓生氏。大学ではラグビーのコーチングやゲーム分析、トレーニングなどについて研究を行い、1999年の第4回ラグビーW杯では日本代表スタッフの一員として参加した
古川拓生氏。大学ではラグビーのコーチングやゲーム分析、トレーニングなどについて研究を行い、1999年の第4回ラグビーW杯では日本代表スタッフの一員として参加した
[画像のクリックで拡大表示]

 あるとき、GPS端末で計測したデータをサッカー日本代表チームの関係者に見てもらう機会がありました。その際、「GPSで得られるデータはためになるが、最もハードなシーンで実際にどのようなプレーが行われているのか、実際の映像が欲しい」ということを言われました。定量的な数字や指標は戦術やトレーニングを向上させるための着眼点を与えますが、より詳細に落とし込んでいくためには具体的な映像をプラスしなくてはならないのです。つまり、「GPS端末はもはやトレーニングに必要なツールの一つに過ぎない」と言うこともできます。

 実際、欧州のサッカーでは、複数のカメラを使い、多視点から選手の移動距離などを把握する手法が普及しています。ラグビーもそれを真似すればよいではないかと思うかもしれませんが、単純に流用することはできません。なぜなら、ラグビーはラックやモールなど、選手たちが密集した状態でプレーするシーンが多い。単純にスタンドからの映像だけでは、個々の選手を認識し、その選手がどのように動いていったのかを把握しにくいのです。