「速度」に着目、見いだしたGPSの新たな可能性
ラグビーという競技でGPS端末で得られるデータと映像をリンクさせ、活用するにはどうすればいいのか。そこで着目したのが速度です。GPS端末では加速度を取得することができるので、選手が特定のスピードに達したときの映像だけを抜き出すようにしたのです。それによって、あるスピードに達する前後でどのように動いていたのかを把握し、よりスピードを高めるためには何が必要なのかを分析できるようになりました。
また、ラグビーは選手と選手が激しくぶつかり合うスポーツです。そのため、選手がコンタクトしたときにどれぐらいの衝撃を受けるのかということも重要なデータとなります。GPS端末で取得した加速度を用いることで、その衝撃の度合いも測れるようになりました。
先ほど「GPS端末はもはやトレーニングに必要なツールの一つに過ぎない」と言いましたが、その機能を十二分に活用することで有用性の高いデータを取得できる可能性を持ったツールでもあるのです。
ドローンによって身につけたハードワーク
GPS端末のデータと映像のリンクのほかに、トレーニングの現場からは「選手個人やチームの動きを客観視するために俯瞰的な映像が欲しい」という話がありました。テレビではフィールドの横から撮影し、主にボールを持った選手に焦点を当てた映像を流していますが、それではフィールド全体を見渡すことができません。そのため、テレビの映像よりもさらに上方から、フィールド全体が見渡せるような映像が欲しいというのです。それによって、相手チームの選手とグラウンド上のスペースを奪い合う様子や、攻撃側と守備側それぞれがどのように選手を配置し、その中でどのようにボールが送られ、トライにつながったのかを見ることができます。
実際、さまざまなカメラを用いて試行錯誤することで、俯瞰的な映像を撮影することは可能でした。しかし、グラウンドと観客の近さ、カメラを設置できる場所など、スタジアムによって条件が異なるため、必ず撮影できるというわけではありませんでした。
しかし、最近はドローンという技術が出てきたことで、条件に捉われず、コーチや選手が求める俯瞰映像を撮影できるようになってきたのです。
W杯直前に行われた宮崎合宿では、ドローンを使ってトレーニングの様子を撮影しました。上空から俯瞰的な映像を撮影することで、タックルなどプレー中の接触によって倒れてしまった選手が「どれぐらいの速さで立ち上がり、もう一度ディフェンスラインを形成していくのか」という様子を見ることができるようになりました。
ラグビーでは選手が倒れてから立ち上がり、次のプレーに移ることを「リロード」と呼びます。俯瞰映像を見たアナリスト(分析担当者)がリロードにかかる時間を計測することで、各選手のリロード時間をデータとして取得できるようになりました。リロードが遅かった選手は、翌日の練習では赤いビブスを着せられて“さらし者”にされます(笑)。次の日も赤いビブスを着ないように、その日の練習ではもっと早く立ち上がろうとするわけです。
客観的・俯瞰的な映像で自らのデータを知ることで、選手はハードワークへの意識を高めていくことができました。従ってドローンは、日本代表にリロードの意識を植えつけていくための技術でもあったのです。