現代のスポーツの世界では、さまざまなデータを取得・分析することは観る楽しみ、そして選手のパフォーマンスを向上させるために必要不可欠なものとなっている。中でも最近、多くの競技関係者から注目を集めているのが「ロケーションテクノロジー(位置情報技術)」。この技術を活用して世界を驚かせたのが、2015年にラグビーW杯で優勝候補・南アフリカを破ったラグビー日本代表だ。2016年6月に「Location Buisiness Japan 2016」で、日本ラグビーフットボール協会 技術力向上委員、筑波大学ラグビー部監督の古川拓生氏が語った、ラグビーにおけるロケーションテクノロジーの活用方法、そしてデータとトレーニングを結び付ける重要性について、談話形式で2回にわたってお伝えする。
筑波大学ラグビー部監督の古川拓生氏(同大学 体育系 准教授、写真右)。「Location Buisiness Japan 2016」で慶應義塾大学 システムデザイン・マネジメント研究科 准教授の神武直彦氏と対談した
筑波大学ラグビー部監督の古川拓生氏(同大学 体育系 准教授、写真右)。「Location Buisiness Japan 2016」で慶應義塾大学 システムデザイン・マネジメント研究科 准教授の神武直彦氏と対談した
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データが示す「世界で最も準備されたチーム」

 2015年にイングランドで行われたラグビーW杯で、日本代表は優勝候補の一角・南アフリカから歴史的な勝利を挙げ、その後、多くのメディアから「世界で最も準備されたチームであった」と言われました。それは、大会後にラグビーの国際統括団体であるワールドラグビーがつくったレポートでも、数字として示されています。

古川拓生氏。大学ではラグビーのコーチングやゲーム分析、トレーニングなどについて研究を行い、1999年の第4回ラグビーW杯では日本代表スタッフの一員として参加した
古川拓生氏。大学ではラグビーのコーチングやゲーム分析、トレーニングなどについて研究を行い、1999年の第4回ラグビーW杯では日本代表スタッフの一員として参加した
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 このレポートには各国のプレーに関するデータが記載されていますが、日本代表は選手の平均体重(Player Size)では参加20カ国中18位、相手のボールを奪う力(Opp.Rs&Ms turn Over)は参加国中20位という数字でした。つまり、日本代表は体が小さく、一度防御に回ってしまうと、体の大きな相手からなかなかボールを奪い取ることができないのです。

 そうした弱点があることは大会前から分かっていたことですので、体の大きな国々とどうやって戦い、勝利をつかむのか、日本代表はさまざまな準備を積んでW杯に臨みました。

 その準備の成果が特に大会を通じて表れたのがスクラムやラインアウトといったセットプレーでのボールの獲得率、そして反則の少なさです。

 スクラムの獲得率は2011年のニュージーランド大会では89%で7位でしたが、2015年は100%で参加国中1位でした。ラインアウトの獲得率においても、2011年の85%(7位)から93%(3位)と大きく成長しました。

 さらに日本代表は反則数の少なさでも大会中1位でした。体格で劣る中、反則を犯すことなく、規律を守りながら戦い続け、歴史的な勝利をつかんだのです。

2015年W杯終了後に作成された大会レポート。体格に劣る日本だったが、優勝したニュージーランドなど世界の強豪国を上回る数値を記録した
2015年W杯終了後に作成された大会レポート。体格に劣る日本だったが、優勝したニュージーランドなど世界の強豪国を上回る数値を記録した
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