「日本はリーダーになる準備が整いつつある」

 Black氏は、ライブ配信ビジネスを取り巻く環境について、「日本は米国より良い位置にいる」と話す。インターネットの接続環境が米国よりも優れているため、ビジネスの成長に期待が持てるとした。

 一般に1080pのHD品質のビデオストリーミングには、4M~7Mbps(ビット/秒)のビットレートが必要になる。2017年第1四半期に日本のブロードバンドの平均ビットレートは平均20.2Mbps。世界では第8位だが、10位の米国(18.7Mbps)を上回る。しかも、年々11%向上している。ちなみに1位は韓国の28.6Mbpsである。

 さらに、モバイルのビットレートに関しては、日本は平均15.6Mbpsで韓国の11.8Mbpsや米国の10.7Mbpsを上回る。スポーツのライブ観戦では、スマホなどモバイルでの品質確保が重要になる。将来的には、4Kのストリーミングも要求されるため、このビットレートの高さはビジネス展開に有利に働く。「日本はストリーミングビジネスで世界のリーダーになる準備が整いつつある」(同氏)とした。

テレビ放送と同等の品質を

 では、スポーツのライブ配信ビジネスの成功に必要なものは何か――。Black氏は過去10年の経験から、「視聴する端末がApple TVであれ、スマホであれ、テレビ放送レベルの品質が必要」と話す。

 最も重要になるのが、視聴者が動画を途切れることなく見られること、つまり「冗長性」をワークフローに組み込むことだという。「動画の配信が途切れたりする“ライブビデオブレイク”はこれからも発生する。実際、昨年も中断したサービスがかなりあった。だからこそ、ありとあらゆる部分に冗長性を持たせて視聴者にそれを見せないことが非常に大事だ」(Black氏)という。

 気になるのは収益性だ。大規模なイベントになるほど、CDNなどのコストは膨らんでいく。同氏はビジネスの現状について具体的な説明は避け、「成功指標は視聴者のエンゲージメント(愛着心)を高めること」(同)と述べた。視聴者の利用回数が増えたり、利用時間が長くなるほど、お金を支払ってくれる機会が増えるからだ。

 例えば、NASCARのTrackPassでは、1つのレースを10~15台の異なるカメラで撮影しており、視聴者は自由に視点を切り替えて楽しめる。また、レースに関する様々なデータを動画に同期して表示することでエンゲージメントを高めている。

 こうしたデータの表示は、「視聴者がどうやって動画を“消費”するのか、もう1度考えるきっかけを与えてくれる」(同)と話す。例えば、サッカーの試合でイエローカードが出されたときに、それに関するデータを表示したりすると、ユーザーの反応がよく見えるという。試合と連動したデータの表示は、収益性を高める上で重要なノウハウとなるのだ。

 今後、視聴者のエンゲージメントを高める技術としては、4K/8K品質への対応、HDR(ハイダイナミックレンジ)、新しいDRM(デジタル著作権管理)を挙げた。