今回は、スポーツ×テクノロジーの「未来」について考えてみたい。それを語るうえで、どうしても外すことができないテーマがAIの活用である。既に一部では、活用もしくは実験が始まっている。
例えば、英国のトゥイッケナムに本拠を置くORECCOという会社は、米IBM社の人工知能「Watson(ワトソン)」を活用してトップアスリートをサポートしている。ORECCO社は、プロアスリートの身体状態を解析するサービスを提供する。IBMとの提携によって、個々のアスリートのパフォーマンスを最高の状態にするために必要な情報をWatsonが解析して提示する。Watsonは、最新のスポーツ科学の研究成果をコーチに迅速に提供したり、選手の栄養補給、体の回復、睡眠などに関する最適解を探したりするのを支援するという。
IBM社は2016年2月には、カナダのMaple Leaf Sports & Entertainment(MLSE)社とWatsonを利用するプラットフォーム「IBM Sports Insights Central」の活用について提携した。MLSE傘下のNBA(National Basketball Association)所属チーム「トロント・ラプターズ」が、選手のスカウティング評価やチームのパフォーマンス評価に同プラットフォームを活用するという。
AIの活用でぶつかる壁
スポーツ分野におけるAIの活用は、現状では黎明期に過ぎないが、今後は間違いなく進んでいくはずだ。チームの戦術分析や作戦面の提案だけでなく、トレーニングプログラムの策定、選手のコンディショニング、障害予防などさまざまな領域での利用が想定されている。
今回のSSACでも、いくつかのセッションでAIの可能性について言及があった。IBM社が協賛していた”The rise of big data in sports”というセッションの中では、「今後AIの利用は間違いなく進むだろう」という発言の後に、「ただし、今後どのような解をAIが見つけていくかは、正直、自分たちにも全く見えていない」という発言もあった。
AIの活用を進めていくプロセスの中で存在感が大きくなっていくテーマが、「人間の直観やバイアス(思考の枠)の壁」「人間の理解力の壁」とでも呼ぶべきものだ。ときにAIは、人間の理解を超えるようなレコメンデーション(推奨)を導き出すことがある。
奇しくもSSACが開催されたのと同じ3月に、米Google社傘下のDeepMind社が開発したAI「AlphaGo(アルファ碁)」が、韓国のイ・セドル九段を全5戦中、4勝1敗で破った。その際、テレビ解説者(プロ棋士)が「アルファ碁」の指す手の意図を理解できずに苦しむ様子が話題となった。
スポーツ分野にAIが応用された際にも、これと同じことが起きる可能性が高い。トレーニングプログラムであれ、戦術であれ、内野手のポジショニングであれ、AIは現状のビッグデータ解析から導き出されるものをはるかに超えるレベルのレコメンデーションを提示してくるだろう。その中には、人間の仮説を飛び越える、人間の直観に反するようなものが多く含まれているはずだ。その際、現場のコーチやアスリートは、一体どういう反応を見せるのだろうか・・・。