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スポーツIT革命の衝撃

「日本版GPS」18年本格運用、スポーツ活用に新機軸

2017/05/31 05:00

内田 泰=日経BP社デジタル編集部

 2017年6月1日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は準天頂衛星システム(QZSS)「みちびき」の2号機を打ち上げる。みちびきは、人工衛星からの測位信号(電波)を使って位置情報を算出するGNSS(測位衛星システム)の1つ。GNSSでは米国のGPS(全地球測位システム)が最もよく利用されており、代名詞的な存在である。

 みちびきは「日本版GPS」とも呼ばれる。初号機は2010年9月11日に打ち上げられた。JAXAは2号機を含め、2017年内に合計3機を打ち上げ、2018年度から4機体制で本格運用を開始する。これには、位置情報を利用する各産業から大きな期待が寄せられている。スポーツ界も例外ではない。

 既にスポーツ分野では、ランニング愛好家がスマートフォン(スマホ)やGPSを内蔵した時計を使って走行データを記録していたり、サッカーやラグビーなどでGPSデバイスを用いた選手のコンディション管理を行ったりしている*1。みちびきの本格運用は、スポーツ界でGNSSを使った新たなソリューションを生み、活用を幅を広げると期待されている。

*1 スポーツでの位置情報の活用については「GPSでケガ減らす、「カタパルト」が支持されるワケ」を参照

24時間、天頂付近に見える

 みちびきが2018年度から4機体制で本格運用されるインパクトを端的に言えば、これまでのGPSのみを使う測位に比べ、「国内ではどこでも、いつでもより精度が高い測位が可能になる」ことだ。GPSの測位誤差は理論上1m以下とされているが、実際には「一般に10m程度、悪い場合は数十m」と言われる。

陸上トラックでの選手の走行軌跡を、GPSとマルチGNSS(GPS、みちびき、Beidou)での計測で比較した図。軌跡に大きな差が見られる。GPSの場合は、グラウンドの周囲に信号を反射する建物などがあるため、ノイズが入って誤差が出ていると推測される。対して、みちびきがあるとノイズが入りにくくなること、さらにGPS以外の測位衛星の信号も取得しており反射波ではない信号を受信しやすくなるので精度が良くなっている(図:慶應義塾大学 神武直彦研究室)
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 GNSSでは、人工衛星が発する電波を受信してそこまでの距離を計算。測位には原理上、最低で4機、安定した計測には8機以上の人工衛星を捉える必要があるとされている。ところが、現状、31機体制のGPSは地球全体に配置されているため、利用できる(受信機から見通せる)人工衛星はどの地点でもおおむね6機程度という。

 ビルが多い都市部や山の陰ができる山間部ではさらに条件が厳しくなる。そもそも電波が届かず測定できなかったり、ビルや山などの“障害物”に電波が反射して誤差が生じる「マルチパス」という問題が起こる。反射した電波は受信機に到達するまでの時間に遅れを生じるため、その分距離が「遠い」と計測されて誤差の要因となるのだ。

 「準天頂軌道」という、日本、そしてインドネシアやオーストラリアの上空を八の字を描いて飛行するみちびきは、こうしたGPSの課題を改善する。

マルチパスによって生じる誤差のイメージ。天頂付近のみちびきからは、かなり正確な距離情報が得られる(図:アシックス)
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 みちびきはGPSとほぼ同様の信号(補完信号)を送信するため、GPSと一体で利用できる。現在の1機体制では日本の天頂付近に8時間しかいないが、2018年度には24時間見えるようになる。つまり、都市部や山間部であってもたいていの場所で、天頂付近から正確な電波を受信できる。マルチパスの誤差を回避できるのだ。

 さらに、日本付近からは仰角20度以上に16時間とどまるため、4機体制であればおおむね3機を測位に利用できる。GPSを6機使える場合、合計して9機体制となり、測位の安定性が増す。

「マルチGNSS」がトレンドに

 国内ではみちびきの本格運用が大きなトピックだが、近年、世界各国もGNSSの運用を強化している。ロシアの「GLONASS」、欧州の「Galileo」、中国の「BeiDou」などが運用されており、今後もその数は増える見通しだ。

2013年11月1日に東京から見えたGNSSの分布(左)と、2020年時点での分布予測(右)。天頂付近に「みちびき」が見える(図:JAXA)
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 みちびきを含め、こうした複数のGNSSを同時に活用する「マルチGNSS」は、従来のGPS単独よりも高精度で安定した測位を実現するため、多くの産業界で実用化が進むのは間違いない。

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