プレースタイルに合ったシューズ選び
こんな応用提案もある。アシックスの坂本氏によると、テニスなどでプレースタイルに合ったシューズ選びの支援に使える可能性があるという。
一般にテニスでは、ベースライン付近でプレーする「ベースライナー」と、サーブを打ったら前に出てネットプレーをする「サーブ&ボレーヤー」というプレースタイルがある。両者で動きの質がかなり異なるため、アシックスではそれぞれに適したシューズを用意している。
同社が提案するのは、シューズの購入を検討している選手にマルチGNSSデバイスを装着してプレースタイルを見極め、最適なシューズを薦めるという使い方だ。実際にみちびき対応のデバイスで実験したところ、分析が可能なレベルだったという。都会にあるテニスコートはビルに囲まれていることも多く、みちびきの本格運用でこうした使い方も可能になると見ている。
テニスに限らず、ポジションごとに動きの特性が異なる競技では、トラッキングデータの蓄積によって、ポジションごとに最適な用具開発という新たな取り組みも生まれるかもしれない。
高性能スマホがみちびき対応
もっとも、マルチGNSSデバイスがスポーツ分野で広く活用されていくためには、現状ではクリアすべき課題もいくつかある。
まず、小型で低消費電力、そして安価なチップを容易に入手できるようになることだ。基本的に測位精度を向上するためには、人工衛星の捕捉数を増やす必要がある。ただし、そのために「チップのチャンネル数を増やすほど、データの処理時間がかかり、電力消費も高まる。つまり、精度と処理時間・消費電力はトレードオフの関係がある」と神武氏は指摘する。
加えて、デバイスの設計にも工夫が求められる。多くの人工衛星の電波を受信するため、アンテナ設計の難易度が高まる。さらに、ラグビーやサッカーなど選手同士がぶつかり合うコンタクトスポーツに応用するには、耐衝撃性や防水性の確保も必要になる。
しかし、明るい兆しは見えている。既に米Apple社の「iPhone 7」やAndroid版のハイエンドのスマホには、みちびきに対応したマルチGNSSチップが搭載されている。
テクノロジーの進化の歴史を振り返ると、量産規模が大きいパソコンやスマホに採用された技術は、短期間に課題が解決され、価格が急速に安くなっていく。マルチGNSS対応チップが、量産規模が大きいスマホで搭載が始まっているという事実は、上記のような高精度な測位技術を活用した新たなスポーツ向けソリューションが誕生する予兆とも言えそうだ。