「狙っているのは、リトルリーグの選手や草野球を楽しんでいるプレーヤー。“草の根”的な活動を展開し、将来はバット市場でトップシェアを取りたい」(日本で販売代理店を務める、フラッグ取締役 EASTON事業部ゼネラルマネージャーの山同建氏)。

 米国最大の野球用具ブランド「EASTON(イーストン)」が、これまでのスポーツ用品メーカーとは“真逆の戦略”で日本市場の攻略に挑む。

バッティングシミュレーター「ヒットラボ(Hit Lab)」。ゴム製のケージ内でバッティングをして、スイングやパフォーマンスを解析する。写真中央の男性は、イベントに参加した元プロ野球選手のデーブ大久保氏、左の女性はタレントの小島瑠璃子氏。(写真:フラッグ)
バッティングシミュレーター「ヒットラボ(Hit Lab)」。ゴム製のケージ内でバッティングをして、スイングやパフォーマンスを解析する。写真中央の男性は、イベントに参加した元プロ野球選手のデーブ大久保氏、左の女性はタレントの小島瑠璃子氏。(写真:フラッグ)
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 EASTONは、日本ではあまりなじみがないブランドだが、米国の野球用具市場では他を圧倒している。設立は1922年。アルミニウム素材の開発と加工技術をベースに、1969年にはアルミニウム合金製の金属バットの生産を開始。現在、米国市場でバット、ヘルメット、野球用バッグでトップシェアを持つ。金属バット(ウレタン・カーボン製を含む)のシェアは45%に達する。

 特筆すべきが、11~13歳の選手が加盟する「リトルリーグ」での強力なブランド力。例えば、2014年と2015年のリトルリーグ・ワールドシリーズ(世界選手権)では、選手の95%以上がEASTONのバット、グローブ、ヘルメットなどを使用していた。

  「日本では売っていないのに、2015年6月の日本代表決定戦では全員がEASTONのバットを使っていた」(山同氏)というエピソードまである。

常識を覆す「飛ぶバット」

グリップ部が360度回転する「トルクシステム」を導入したバット「MAKO TORQ(メイコー・トルク)」シリーズ。(写真:フラッグ)
グリップ部が360度回転する「トルクシステム」を導入したバット「MAKO TORQ(メイコー・トルク)」シリーズ。(写真:フラッグ)
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 なぜ、リトルリーガーにここまで支持されているのか。ボールが「飛ぶ」からである。

 EASTON社のミッションは“スポーツエンジニアリング”。「野球は科学である」という考えに基づいて、長年開発を続けている。例えばバット開発では、多くの選手のヘッドスピードなどのデータを集計・解析してその結果を活用している。代表作が、2014年に発表したバットの常識を覆す技術「トルクシステム」である。

 トルクシステムを導入したバットは、グリップ部が360度回転する。まさに“常識外”だが、グリップが回転することによって、「ボールをぎりぎりまで引きつけて最短距離でバットを振り抜ける」(山同氏)。これによって、ヘッドスピードが速くなるほか、バットコントロールもスムーズになるという。

 リトルリーグ・ワールドシリーズにおけるEASTON社製のバットの使用率の高さ、そして上記の日本代表決定戦でのエピソードは、トルクシステムの効果などが選手やチームに認められている証左だろう。

 通常、スポーツ用品メーカーはブランドの浸透に当たって、まずは有名選手もしくは将来有望な若手選手と契約して自社製品を使ってもらい、そこから一般プレーヤーに広める「上から下」の戦略を採る。

 EASTON社の戦略は真逆だ。アマチュア選手における高いブランド力を礎に、「下から上」の戦略で、野球用具で約40%という圧倒的な国内シェアを持つミズノに挑む。

 もちろんそこには、米国でも日本でもプロ選手は金属バット自体の使用が禁止されているし、日本高等学校野球連盟(高野連)が主催する大会などでは金属バットの使用は問題ないが、トルクシステムのような“飛び道具”は使えない、といった事情もある。