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スポーツIT革命の衝撃

GPSでケガ減らす、「カタパルト」が支持されるワケ

2017/05/19 05:00

内田 泰=日経BP社デジタル編集部

 サッカーのブンデスリーガ、ボルシア・ドルトムントの香川真司選手や、プレミアリーグ、レスター・シティFCの岡崎慎司選手らが、“ブラジャー”のようなものを身に着けて練習している風景を見たことがある読者もいるだろう。

選手は、背中の部分にGPSデバイスを入れるポケットが付いたブラジャー型装具を身に着ける(写真:Catapult社)
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 「デジタルブラジャー」とも言われるこの装具は、背中の部分にGPS(全地球測位システム)デバイス*1を固定するポケットが付いている。GPSを含むGNSS(測位衛星システム)や加速度/角速度センサーなどを内蔵する背中のデバイスが、選手のパフォーマンスを計測する。取得するデータは、走行距離、走行スピードのほか、加速・減速、体の傾き、さらに地磁気センサーを搭載する場合は方向転換なども検出できる。


*1 GPSは米国のGNSSである。位置情報の取得にGPSのみを使うデバイスがいまだに多いが、最近ではロシアのGLONASS、欧州のGalileo、日本の準天頂衛星(QZSS)、中国のBeidouなどの運用に伴い、それらのGNSSも活用するデバイスが登場している。ただし、ここでは測位衛星を使った位置情報デバイスの総称として「GPSデバイス」と呼ぶ

Catapult社の「OptimEye S5」。GPSに加えて他のGNSSにも対応。加速度/角速度/地磁気センサーを内蔵する(写真:Catapult社)
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 このスポーツ向けGPSデバイスで市場をリードしているのが、オーストラリアのCatapult(カタパルト)社だ。同国が1976年のモントリオール五輪で金メダルの獲得がゼロと惨敗したことを受け、政府が1981年にオーストラリアスポーツ研究所(AIS)を設立。さらに1990年には産業発展などのための研究組織として共同リサーチセンター(CRC)が設立され、そこに在籍していた研究者が2006年に同社を創業した。

 そのCatapult社が、企業買収などを通じて“スポーツセンシング”の領域で積極攻勢に出ている。2014年にスポーツ向けGPSデバイスで競合のオーストラリアGPSports社を買収したのに続いて、2016年にはスポーツの映像解析サービスを手掛ける米XOS Digital(エクソス・デジタル)社、さらに一般アスリート向けにGPSデバイスを販売するアイルランドPLAYERTEK(プレイヤーテック)社も買収している。

世界のビッグクラブも採用

 Catapult社の顧客は、既に世界で1000社以上に広がっている(買収したGPSports社などの顧客を含む)。最も採用が進んでいる競技がサッカーだ。海外では冒頭のサッカークラブ以外に、バイエルン・ミュンヘン、チェルシーFC、レアル・マドリードなど世界的なビッグクラブ、さらにはブラジル代表なども採用している。

Catapult社ビジネス開発マネージャーの斎藤兼氏
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 国内では現在、Jリーグの11チームが採用。J1は柏レイソルや清水エスパルスなど4チームで、残りがJ2だ。J2のチームが多いのには理由がある。既にJ1チームの全スタジアムには、専用カメラを設置してピッチ全体を撮影し、選手・ボール・審判の動きをデータ化する「TRACAB(トラキャブ)」(米ChyronHego社)というシステムが導入されている。しかし、J2チームのスタジアムにはそうしたシステムがない場合が多い。このため、「GPSデバイスによるセンシングのニーズは高い」と、Catapult社で日本やアジア市場の開拓を担当する、ビジネス開発マネージャーの斎藤兼氏は話す。

 2015年、FIFA(国際サッカー連盟)はGPSデバイスの試合での着用を認め、Jリーグでも2016年から試合での着用が許可された。もちろん、それ以前から練習で選手のデータを取得しているチームはあったが、試合と練習でのデータを比較したりすることが可能になった。それがサッカーで採用が多い理由の1つでもある。

 他競技に目を向けると、米国ではプロバスケットボールのNBA、プロアイスホッケーのNHL、プロアメリカンフットボールのNFLのチームなどが顧客となっている。国内ではラグビーのトップリーグに所属するチームや日本卓球協会などが採用している。

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